ひらこ小説

□拝啓、愛しかった君へ
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「喜、助…あ、う!」

縛られた手首が痛い。きっと鬱血してしまっているだろう。

「ホラ、もっと啼いてくださいよ」

目の前の喜助は、普段となんら変わりない姿格好だ。着ている物は少しも乱れてない。
今の俺とは、とても同じ空間に居るとは思えなかった。


「あ、あァ、はぅ!…ふ、」

息が苦しい。呼吸ができない。
喜助は欲情している気配も無く、ただただ冷たく俺を見据えていた。

「あン、…と、トイレ…」

「…何スか?」

不意に尿意が起こる。
何が何だか、分からない。

「ちょ、お、トイレ…行、きた、」

「…いいっスよ」

「な、にが」

喜助の意図が、読めなくて困惑する。

「此処で、しちゃって下さい」

「な、」

「利尿剤使ったんスから、行きたくなって当り前っスよ」

喜助は何でもないように言った。

「いややっ…!」

目を閉じて首を強く振る。
首も、縄に擦れて痛い。

―ばしっ…ん。

頬に衝撃。殴られたと気付いたときには、今度は顎を蹴り揚げられていた。

「か…は、」

―がん、ばし、がん、

浴びせかけられる痛みに、俺はただ、耐えるしか無かった。

「アタシがしろって言ってるんス。…しろよ、しろよ!」

喜助は壊れていた。きっと、喜助は俺以上に、色々背負いこんでしまう人だったから。


潰れてしまったんだろう。

あの日、俺を助けたりなんかしてしまったから。

お前は。



喜助は未だ俺に痛みを付けていた。


「しろよ!」

喜助が、俺のモノを力任せに踏みつける。

「ぁぁあ、あ―――――――!」

痛い。痛い。痛い。
俺は、必死に堪えていたモノを、出してしまった。
悲鳴は喉に詰まって、擦れた空気が微かにでただけだった。
喜助が俺を氷のような冷たい目で見下ろす。諦めたように、

「………汚い奴だな」

言って、俺に背を向ける。
理不尽だと言う資格は、俺には無かった。



















喜助、スマンなァ…………。







お前を、あんなに綺麗やったお前を、汚してしもて。

















俺のせいだ。
俺がお前に祈ったりしてしまったから。





手を伸ばすことも、赦されはしないけれど。




赦してくれなんて、言わない。


俺はただ、お前が幸せだったら、それで、































サヨウナラ。


愛しかった君へ。
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