ひらこ小説
□この瞳にカメラを
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「何ッっやコレはぁぁァァア!!」
ある晴れた朝のこと。今朝配られたばかりの瀞霊廷通信を手にした儘、平子は叫び声を上げた。
ードンドンドン!
「拳西!何やコレ!」
扉を叩く喧しい程の音にうんざりして開けると、立っていたのは―分かり切ってはいたが―五番隊隊長、平子真子だった。
平子が突き付けてきたのは、昨晩徹夜で仕上げた今月号の瀞霊廷通信。
「あん?何がどうしたってんだ」
心底面倒臭そうに返事をすると。
「コレや、コレ!」
そんなことお構い無しとばかりに平子が指差したのは通販のページ。
「だからコレが何だってんだよ?」
「よく見てみぃ!」
良く見ろと言われても、平子の細くて白い指に目が行くだけである。
それでもその指先をじっくりと見てみると。
「んん…?『平子真子写真集』…?」
「瀞霊廷通信てお前んとこで編集しとんねやろ!俺はこないなモン許可した覚えないで!」
まくしたてる平子に、お前はどこぞのクレーマーか、とツッコミたいのを堪えつつ、応えてやる。
「知らねェよそんなもん。だいたい写真集の発行は女性死神協会なんだから俺らは関与してねぇよ。ちゃんと発行元書いてあるだろ」
今度は拳西が指差す。
「!…そうなんか?」
手元の紙面を見つめる平子。暫くして、さっ、と顔に朱が差した。間違いに気付いたらしい。
「……………」
平子は気まずそうに黙り込んで顔を逸らした。そして。
「ス…スマン」
もぞもぞと口を動かして言葉を紡ぎだす仕草をする。
「おぅ」
「じ、じゃ、俺卯の花隊長んとこ行って来るわ」
狼狽する平子を見て、拳西は心の中だけで少し笑った。
「じゃーな。気を付けろよ」
「おお、ほなな」
軽く手を振ると、平子はそそくさと行ってしまう。
「しょうがねェヤツだぜ、全く」
平子がいなくなった後一人残った拳西は、一人ごちてから隊舎へと戻って行った。
「卯ーのー花ーたーい長ー!」
四番隊隊舎前。平子は手をメガホン状にして呼び掛ける。
「卯の花さーん!」
返事はない。
「卯ーのー花ー!!」
「なんですか」
「ぅおう!何や、急に出て来なや。びっくりするやん」
卯の花に対してタメ口をきける者は少ない。そんな中でもタメ口で話していても許されるのが、平子だった。
「呼んでいたのではないですか」
「おぉ、せや。あんな、コレのことなんやけど」
平子が瀞霊廷通信の通販ページを開くと。
「ああ、忘れていました。一応貴方にもお渡ししようと思っていまして」
卯の花が事もなげに言う。
「ん、おおきに…やなくて!そういう事やないねん!」
「どういうことですか?」
「俺こないなモン許可した覚えないんやけど!」
「許可なら頂きましたよ」
「誰にやねん、それ!」
「誰って、貴方が許可した、と言っておりましたよ」
「だから誰やねんて」
「藍染副隊長が」
「あぁああ!やっぱしお前やったんか惣右助ェェエ!あんのアホメガネが!!!!」
「平子隊長、お静かに」
「静かになんかできるかい!」
それどころではない、と言うような形相の平子に。
「お・し・ず・か・に、と申しているでしょう」
卯の花の背後からなにやら黒いものが沸き上がる。
平子は危険を察知して大人しく引き下がった。
「お、おぉ…ス、スンマセン」
「では写真集、持ってまいりますので、待っていてくださいね?」
有無を言わせぬ卯の花の口調に気圧されたように、平子はいつもよりも一層背を丸めて縮こまってしまう。
手渡された写真集の表紙に軽く吐き気を覚えた。
表紙には、自分の寝顔が写っている。誰が撮った物か、考えずとも答えは明白だ。
「ほ、ほな、俺はあのボケシバきに…やなくて帰るわ」
卯の花への怯えを残しながらも、平子は言う。
「ホンマにスンマセンでした…」
最後に卯の花は、大和撫子を思わせるその美しい顔全面に黒い笑みを湛えて、とどめのような一言を放った。
「次巻も、楽しみにしていて下さいね」
何やねん次巻て、と喉まで出た言葉を押し込めて力なく笑い返すしか、平子にはすべがなかったのだった。