こころ

□ぼくのこころ
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僕は卑怯な人間だ。


己の欲の為に嘘を吐いたのだ。
しかも、最も親しくそして最もこの僕を気づかってくれていた、おまえに、だ。
許されるべきことではない。どんなに罪深い行動か。

僕はそれを悔いているのだ。ただ、僕にはその時に、それしか選択肢が無かった。
それ以外に口にする言葉など見つからなかった。
だからと言って許されるとは思わない。僕は許されざる罪を持ちながら逝くのだ。



僕はおまえがお嬢さんを好きだと、知っていたのだ。
知っていてなお、お前にお嬢さんへの恋心をうちあけたのだ。

言えばおまえはどんなに悩むだろうと知りながら。
ただただ、おまえがお嬢さんへ結婚を申し込むのが先送りにならないかと、そんな自分勝手であさましい考えを持ってして、僕はおまえにそんな言葉を吐いた。


僕はおまえが好きだった。
そうだ、おまえの他に居なかった。僕に近づき、僕と語り、僕に笑いかける者など。
だから当然だったといえば、そうなのかもしれない。僕は、おまえが好きだったのだ。

しかし、それは勿論世の中から言えば“おかしい”と言うのだろうか。
そして何より、僕を「友人」だと言うおまえを。僕を信頼しきりのおまえを。
裏切ることになる。
おまえの信頼を裏切るならばそれは死んだ方がよほどましだろうと考えるくらいだ。
そんなものは、言える筈が無かった。

だから僕はお嬢さんを好きだと言った。
おまえがお嬢さんを愛していると知っていながら。
お嬢さんがおまえを愛していると知っていながら。
それでも、おまえをとられたくないばかりに。


最低だと罵って欲しかった。
そうすればどれほど楽になるか。
けれどもそれもまた言える筈の無い話で、やはり僕はそれを中に抱えたまま、こっそりと嫌悪に苛まれるより他になかったのだ。



100606

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