10000打企画

□こんな可愛い生き物見たこと無い
2ページ/6ページ



同時刻、事務所前。

そこには匪口が上機嫌な様子で立っていた。その様子からして遊びにでもきたのだろう、と推測できる。
「桂木いるー?」
ドアに呼びかける匪口。しばらくしても返事はない。留守なんだろうか、もしかして聞こえなかっただけかもしれない。もう一度、呼びかけて
「遊びにきたんだけどーっ」
コンコン、と事務所のドアをノックしてもやっぱり返事は聞こえなかった。
「桂木いねーのかな・・・せっかく抜け出してきたのに・・・」
笛吹が聞いたら激怒しそうな台詞を吐いて、しょうがないかぁ、と帰ろうとした匪口は、
『バン!!』
というドアが開け放たれる音と、顔面に激痛を感じる事によって、事務所が留守で無い事を理解した。
「ぃ、・・・〜ってえぇえッ」
「おお、匪口。いい所に来た」
ネウロはにやり、と黒い笑みを浮かべると痛がってうずくまる匪口の襟首を掴み、ずるずるとひきずって強引に中に入れた。

「いってぇ・・・何なのネウロ・・・」
派手にぶつけられた顔面を手で押さえながら、自分の置かれた状況を何とか理解しようと周りを見渡す。
「何が良いところに来たなん、・・・え、?」
目に入ったのは、小さな子供。
「・・・桂木にそっくり。何この子!?」
顔面をぶつけた事も忘れ、食い入るように弥子を見つめた。しばらくまじまじと見続けた後、
「もしかして・・・っ!」
ハッ、と何か気づいたのか顔を上げて、青ざめた表情をしながら
「桂木の子供・・・!?」
ありえない事を叫んだ。
「相手誰!!??ちょっと俺そいつ半殺しにして、いやむしろ殺・・・それよりか洗脳した方がいいかな、電子ドラッグか?洗脳して死ぬより苦しい事を・・・!ああそれでも許されねえだろッ、桂木のっ、ってか桂木とっっ!!??かかかかかか桂木とッそう、いう・・・こここ、子供できっる、様、なっっっ。俺だって我慢・・・じゃなくって、うわ、やっぱ殺して来・・・」
バチィィイン、とそこらじゅうに響き渡る程の大きな音がして、匪口はその音がしたと同時に床に転がっていた。
ネウロが自分は関係ないという顔をしているが、分かりきったこと。この魔人様がしなくて誰がする。
「っいったぁあああぁ゛ッ、何すんだよ!!・・・やば、マジ頭取れるかと思った・・・っ」
頭を抱えながら床から起き上がれない程の衝撃を受けた匪口が、ネウロを涙目で見上げた。
ネウロの方はというと、冷ややかに匪口を見下ろし、フンと小さく鼻で笑ってから口を開く。
「落ち付け馬鹿が、それはヤコの子供などでは無い」
「何なんだよ、じゃあこれ誰?」
今だ目に涙を浮かべながら小さな弥子を指差す。
「ヤコだ」
一瞬、匪口はその事実が理解出来ず、固まった。数秒後、やっとの事で口を開いて、今聞いた言葉が信じられないと言いたげにネウロを見る。
「え、ちょネウロもっかい・・・何だって?」
「だから、それはヤコだと言っておるのだ」
「は、意味分かんねー桂木こんな小さかったっけ?」
その桂木弥子だと言われた子供を見つめれば、
「こんにちは?」
と首を傾けながら話しかけてきた。
あ、可愛い・・・・・あれ俺ってそんな趣味あったっけ?
そんな事をぼやーっと考えて、いやそんな事思ってる場合じゃない!!、とまたネウロを見上げると、疑問を口にした。
「じゃあ、さ。これが桂木として、何でこんな事に?」
百歩譲ってこの子が桂木だとしよう。だが、何故に子供の姿になっているのか?いや、これはこれで可愛いが。ってそういう問題でも無い。説明が無ければ納得など到底出来ない。
匪口はネウロと小さくなった弥子を交互に見つめて、答えを待った。
「我が輩がつくった薬をな、少量茶に混ぜてみただけなのだが」
ああ、納得いった。これでもかというくらい。
ネウロのする事に疑問を持ってもしょうがない事なのだ。だって同じ人間などでは無いのだから。何が起こっても事実、“そういう事”である。

「この子が桂木って事は分かった。それで、どうすんの?このままだとアンタも困るんじゃ無いの?」
匪口がそう言えば、
「だから良いところに来たと言ったのだ。少しばかりそのミジンコを見ておけ。我が輩は直す薬をわざわざ作らねばならんのでな」
ネウロはニッと笑って答えた。
「待てよネウロ、俺どうすりゃ・・・って居ないし!!」
言い逃げした、と言ったら正解かもしれない。匪口の抗議は意味を成さず、ネウロはとっくに居なくなっていた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ