朧月夜

□憫笑う月
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攘夷戦争末期―――

「……またか」

日に日に悪化する戦況。天人との圧倒的な戦力差に対し、攘夷軍は地の利を活かしたゲリラ戦を展開した。だが、母なる大地は天人、地球人の差別無く平等に……貪欲に血を欲した。更に武器弾薬は勿論、ここ最近は深刻な兵糧不足にも陥り……司令官である桂が夜を徹して作戦を練り、どれだけ犠牲を少なくしようと努力しても、その数は確実に軍の力を削いでいく。

現に、今桂の眼の前に無造作に転がる死体の過半数は天人だが……やはり彼方此方に点在する―――ついほんの二刻程前までは同志だった者の成れの果て。

だが。桂の表情が険しいのは作戦が失敗したからでは無い。確かに犠牲を出したが、天人の拠点―――それは、今後の自分達の命運を左右しかねない程の要所だった――を完全に陥としたのだ。作戦は成功だ。これで、多少なりとも兵達の疲れを癒すことができる。今回の戦は……勝ったのだ。

陽動部隊として動いた高杉の鬼兵隊と銀時は正に鬼神の如き働きだったと聞く。彼等にまた更なる伝説が加わったのであろうことも間違いない。

それでも……。桂はぎりり……と唇を噛み締め。視線を足元の一人に移す。

―・―・―・―・―・―・―・

それは、つい最近軍に加わった男。恐らく抵抗も出来ずに一太刀の下に絶命したのであろう。防具ごと急所を正確に貫かれた躰。その白く濁り始めた眼は驚愕に見開かれて……。

「……やはり……」

屈み込み、瞼を閉じさせた桂は深い溜め息をついた。見上げた曇天の空は今にも泣き出しそうな雲行き。そろそろ拠点に戻らねばならない。

「高杉……銀時」

幼馴染みであり、頼もしい戦友でもある二人の名前……の筈なのに。今は桂の心に重くのし掛かる。

「早く……戻らねば」

ぽつり……ぽつりと降りだした雨は直ぐに激しさを増す。冷たい雨は体力を奪う。見透しの悪い視界。勝った戦とはいえ、残党も未だそこいらにいるかもしれない。こんなところで死ぬわけにはいかない。味方と合流すべきだ。そう。味方……奴等の……銀時や高杉や辰馬達の元へ。

そんなことを呟きながら新しい拠点へ向かう桂の足取りは……重い。
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