長編

□第二話
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ぽたぽたぽた


窓の外から雨音が静かな室内に響き渡る。その音に我に返ったようにどちらともなく離れて窓を見つめた。
















「………降ってきちまいましたね、」


「…うん、朝から天気悪かったし、ね…」


「──では、俺昨日の報告書がまだ書き終わってませんので…これで。色々と、すいませんっした」


「えっ!?い、いや、お…おれの方こそっ……」



ごめん、






と言おうとした唇に手が当てられる。それ以上は言わないでとでも言うように眉が寄るのを見て自然と口を噤んでしまった。




「──あなたがいくときは俺も一緒にいきます。では失礼しました。また後で、」





ぺこりと頭を下げて出て行く背中。

その真意を問いかけられないまま扉が閉まった。





耳に反響する音が誰かの泣き声のように聞こえて。ゆっくりゆっくり、静かに窓を伝う雫にどうしようもない焦燥感が芽生えた。









──ねえ、君が言う“いく”はどう書くの?“行く”?それとも…“逝く”?



…約束したよね。
お願いだから、こんなことでいなくなったりなんて、…しないで。

おれが帰ってきたとき、誰が一番最初に駆け寄ってきてくれて、誰が一番最初に泣いてくれて、誰が一番最初に抱きしめてくれるの、








例えそれが只の自己満足に過ぎなくても、
叶うことすらないと分かっていても、


───希望を持つのは自由だろう?












窓に写る自分を見て情けなさが溢れ出す。もう頬には涙の痕すらも残っていないのに写った雫でおれの顔はぐちゃぐちゃだった。





こつりと額を冷たい硝子に当てる。


視線を下にさ迷わせればごつごつとしたリングが目に留まった。そのリングをつけている中指ですらおれの憎む対象になってしまっていて。これのせいでおれたちの未来はじわりじわりと滲んでいったんだ。




もしもこの受け継ぐものがなかったら、未来はこうならなかっただろう。そうすれば白蘭もこれほどまでに求めたりもしなかった。母さんも父さんも京子ちゃんやハルだって、怯えて過ごさなくて良かったのだ。ああ、そうなるとアルコバレーノも守るという使命を任されなかったはず───



もしも、もしも、と思うだけで希望が絶望へと変わっていく。



…だっておれの生きる世界はもう変わらないのだから。















「──もう、自分を咎める時間は終わった?」











突然後ろから声をかけられる。

ドアに寄りかかるようにして腕を組み、口元に笑みを浮かべながら、──孤高の雲の守護者は忌々しげに言葉を吐きだした。






「っい、つから…いたんですか、」




それには応えようとはせず、部屋の中央まで歩いてきたかと思えば手招きをされた。殴られるんだろうか、(理由は分からないが理不尽なこの守護者だったら十分にあり得る)と思わず躊躇してしまう。





そんなおれの行動を見抜いているのか、何故かぱっと両腕を横に広げてもう一度見据えられた。










「──おいで、綱吉」










威圧的に、有無を言わさぬ口調で、だけどその両の目は優しげに細められていて。






不安の渦に捕まれていた脚を引っこ抜いて、そのまま脇目も振らず思いっきり抱きついた。











────だって、今のおれが頼れる人はもうこの人と…もう一人しかいないのだから、





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