長編
□あなたが隣で笑っているだけで、(獄綱)
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おめでとう、も、ありがとう、もそんな言葉俺には必要ない。
そんな世界を物心ついたときからもうずっと見てきたのだから。
だから、これから先もそんな世界をずっと生きていくのだと思っていた。
「よーっ!早いな獄寺、」
「うっせーな!右腕なんだから当たり前なんだよ!」
掴みどころのないへらへらとした顔の野球馬鹿を朝一番に見るとは運がない。
どうせなら朝一番にはあの方が、
「ぎゃーっ遅刻する!!なんで起こしてくれなかったんだよっ!!」
「おはようつーくん。母さん、何回も起こしたわよ?それにその時計、リボーンちゃんが」
「母さん弁当ちょうだい!あーっもうっ今日風紀委員の服装検査あるのにーっ!!行ってきます!!」
ばたばた忙しない音が聞こえたと共に玄関から思いっきり人が飛び出してきた。
俺はと言えばちょうど開けようとしていたものだから、その飛び出してきた相手をすぐに確認して手を伸ばす。ぼすん、と音がして顔の下で薄茶色の髪がふわりと揺れた。
「うわっ…!!っ……あ、あれ、」
「大丈夫っスか10代目!!」
「…へ、っわ、あ、ありがとう!獄寺くん、」
「いえ、それよりお怪我は、」
「ないよごめん助かった」
矢継ぎ早に言われすぐ離れていく10代目。
ちょっと残念だ、と思ってしまったのは気のせいだ。
「いえ。あなたにお怪我がなくて良かったです。…10代目?耳めちゃくちゃ真っ赤っスけど…あっ!!もしや俺が支えたときぶつかりましたか!?」
「えっ!!あ、赤い??!!そ、そんなことないよ!!ほら早く行こ、雲雀さんに怒られるよ」
「そうなのなー獄寺に構ってばっかいねーで行こうぜツナ!」
「え、あ、山本おはよう!」
山本が10代目の肩に手をかける。それを振りほどこうともしないで2人は歩き出した。
ぎゅ、と拳を握る。
10代目の右腕になること、それは絶対揺るがない信念だけれども最近違った感情もぶくぶくと沸いてきている気がする。
山本の馴れ馴れしいスキンシップも雲雀の他の誰にも見せないような笑みも骸のわざとらしい態度も何もかもが気に入らない。
「ごーくーでーらーくーんっ!!遅れるよーっ早く行こーっ!!」
曲がり角で10代目が叫ぶ。
「はい、!」
カバンを肩にかけ直して走り出した。
このときの俺はまだ先のことなんて見えちゃいなかった。
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