長編

□くろたん2013━誠凛編━
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『さて、最下位は残念!水瓶座のアナタ!今日はなんだか面倒事に巻き込まれそうな日。でもそれがアナタにとっては良いことになるかも?!ラッキーアイテムは"あなたに好意を持つ人の好きな食べ物"です』


「………………」
「おはようテツヤ。誕生日おめで………あらあら……せっかくの日なのに残念ね。」
「……ラッキーアイテム…………」
「テツヤ、この番組の占いだけは気にするわよね。…ほら、早く仕度しなさい!遅刻するわよ。それに朝ごはんにテツヤの好きな甘い卵焼きを食べたんだからこれで大丈夫よ」
「はい」
(……好意を持ってるかどうかなんてどうやって知ることができるんですか………)



にこにこと笑う母親に、それを言うならバニラシェイクが飲みたかったと呟いてから黒子は洗面所に向かう。相変わらず四方八方に跳ね散っている髪を申し訳程度に撫でてるとチャイムが鳴り響いた。母親が対応している声が聞こえる。
(………さっそく、きましたか……誰でしょう…)


「テツヤー!学校のお友だちよー!」

学校のお友だち、ということは制服が同じということ。母親のあれこれ質問している声が聴こえて、ああ家に初めてきた人なんだなと推測する。つまり黒子の考えるうちでは1人しかいない。



「……火神君、おはようございます」
「………うす。あのさぁ、学校、……あー…その、一緒行ってもいいか?」
「………君はバカですか」
「っな……!てめぇ、せっかく!」
「だって、学校もクラスも一緒で、席も前後で、更にここまで来てくれたというのに……断る理由が見つかりませんよ」


とんとんとつま先を地面に打ち、靴を履く。呆れたように見上げれば、火神はその言葉に少なからずもほっとしたようだった。ぺこりと玄関先にいた母親に頭を下げてから、自分のだけでなく黒子のカバンも持って火神は先にでる。よく見れば、その手には大きな紙袋もあって。今日何か必要なものでもあったのかと思いながら、待ってください、と言って黒子は慌ててその背を追いかけた。


「………あのー………さ、」
「はい、なんでしょう」
「今日……その、さ、31日、だろ」
「ああ。そうですね」


しれっとした様子で応えれば火神は低く唸ってからぼりぼりと頭を掻く。

(………ほんと、こうゆうところが似てるんですよね……)


昔の、あの、あたり一面銀世界が広がっていた朝の日を思い出す。鼻を真っ赤に染めて、一体いつから待っていたんだとつっこみたくなるようなその手の冷たさは、今じゃもう思い出せなくなってしまった。あの時はまだどんな未来がきたって隣にいると信じていたのに。


白いキャンバスにぽつりと青色と水色が浮かんで。暫くして、赤色が緑色が紫色が桃色が黄色が。白黒で薄い水色の空が広がっていただけの黒子のキャンバスは、彼らのおかげで彩りどりに染め上げられた。それがどうしようもなく綺麗で、嬉しくて、そして切なくて。ぽたぽたとたくさんの透明な水たまりがいくつも描かれていく。それと共に、周りの色はより一層優しく輝いた。
何よりも大切にしていて大好きだったあのキャンバスはもう、どこにもない。捨てたのか破いてしまったのか隠したのか、はたまた誰かが持っていってしまったのか。黒子が気づいた時には既に何もかも失くしてしまった後だった。

目を瞑ればあの日の記憶が蘇ってきてしまって、黒子は鼻先までマフラーに埋める。
隣にいる人も近くにいる人ももう、違う人。世界はがらりと変わってしまったのだ。それが良かったのか悪かったのか、なんて決めることはできない。だってどちらの世界も黒子にとってはとても大事なものだから。



「━━━━こ!黒子!おい!赤だぞ!」
「………あ。」
「あっぶねーな……誕生日に死ぬ気かよ」
「………覚えててくれたんですね」
「………あ。」
「で。朝早くから僕の家に来た理由はなんですか?」
「ここまで言ったらわかるだろっ……!つーかわかれ!!」
「さあ?言葉にしてくれないと」
「ほんっとてめぇはいい性格してるよな……」
「お褒めに預かり光栄です」
「褒めてねぇよ!!…………あー………なんだ、まあ、その、おめっとさん」
「…火神君、顔赤いです」


うるせーと言ってわしゃわしゃと撫でられる頭が痛い。せっかく酷かった寝癖をなんとか直したというのに。これじゃあまた元に戻ってしまう。
ぱしりとバカでかい手を払い除けると今度は反対側から思いっきり頭を鷲掴みにされた。更にぐわんぐわんとかき混ぜられるようにして頭を撫でられる。ああ、この手の大きさは、きっと、



「黒子ー!今日誕生日なんだってな。おめでとう!」
「木吉先輩、」
「な、んでっここに!」
「ん?…………んー?…むしろオレはお前に聞きたいぞ火神。オレは学校に近いけどお前はこっちじゃないだろ?」
「そ、それは、」
「あー……なるほどなー。もしかしなくとも、黒子に一番に言いたかったってやつか?」
「なっ……!!」
「へえ。そうだったんですか火神君、」
「ちっげーよ!んなわけ「あっ!黒子ー!たんじょ………はっ!キタコレ!ハッピーバースデーでハッピ貸すでー!」
「「…………………」」
「おー伊月!なんだハッピ貸してくれるのか?」
「おはよう木吉、黒子、かが……どうした?2人とも変な顔して」


ここにキャプテンがいてくれたら、と火神と黒子が同時に思ったことは言うまでもない。

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