長編

□くろたん2013━誠凛編━
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学校に着くとどこから聞いたのか、クラスメイトが数人声をかけてくれた。期待していなかった分、嬉しさが増す。火神とだけじゃなくて俺らとも仲良くしよーぜ!なんて言われて思わず黒子は顔が綻んでしまった。
…返事を返す前に、隣にいた火神が何故かぎゃんぎゃん吼えていたが。




三時間目の休み時間、携帯がチカチカと点滅した。ちょっとした期待と緊張混じりに見れば、カントクからで。そのメールは『昼休み部室にきてね!』と一言だけ。火神にもきているのかと思いきや、机に乗せられたそれは音沙汰なしのようだった。


四時間目をそわそわしながら珍しく起きていた火神は、黒子が声をかける前にチャイムと同時に教室を飛び出していった。教師がまだ終わってないぞ!と怒鳴る。クラスメイトたちは火神を見て、それから黒子を見て、更に別の教室から飛び出してきたバスケ部の降旗たちを見て(これまた同じように教師に怒鳴られていた)、黒子をまた見て、微笑ましそうに笑った。

(何かあったんでしょうか。それよりお昼…………あ、でもカントクに、)

「くーろーこー!」


今度は教室のドアから己を呼ぶ声が聞こえて黒子はそちらを向く。そこには、よ!と片手を挙げて黒子を真っ直ぐに見る伊月と少し身を屈んできょろきょろと教室を見渡してる木吉がいた。
伊月の向いている方向でようやく見つけたのだろう。木吉が黒子の方へずんずん歩いてくる。ちょっと不機嫌そうに見えるのは、真っ先に見つけられなかったからなのか。その様子に伊月は思わず笑ってしまった。
伊月が黒子を一番に見つけるたびに、近くにいる部員が似たような反応をするからこんな態度をとられるのはもう慣れっこで。少しだけ優越感に浸りながらも木吉の後を追う。



「先輩、どうしたんですか」
「ちょっと用あってなー」
「僕に、ですか?あの、でもカントクに」
「あー……うん。まあそれは後でいいんじゃないかな」
「え?でも、昼休みに部室にって」
「木吉、」
「よし。━━━じゃー行くぞー」
「え?あの、っ!わっ!」



いきなり腰を掴まれて、それからよいしょと木吉が黒子を肩に担ぎあげた。


「ちょ、先輩?!」
「黒子、そんなに暴れたら落ちるぞ」
「おー思った通り軽いなー。ちゃんと食べてるのか?あ、そうだ!今度オレんち」「はいはい木吉。ナンパするのは……はっ!軟派がナンパ中に難破!!」
「…………伊月先輩、ちょっと意味がわからないです」


面白そうにちらちらとその様子を見ていたクラスメイトたちが一気に凍りつく。それを気にせずに歩いていく木吉と伊月に、黒子は本日二回目のここにはいない人を望んだ。



破天荒な行動をとられることに慣れているのか黒子は早くも落ち着いていつもの姿を取り戻していた。木吉の背でぶらぶらと手を動かし、カントクが……と呟いているのはきっと3倍メニューを言い渡されると思っているのかもしれない。



「大丈夫だぞ黒子。オレたちも今から部室行くしな!」
「そうなんですか?…でしたら降ろしてもらいたいんですけど……」
「そりゃダメだ。黒子はすぐ見えなくなるからな!」
「伊月先輩がいてくれますのでそれはないかと」
「まあそうなんだけどな。木吉がどうしてもって言うから」
「だってこういうときじゃないと火神がうるさいだろー」
「はあ……木吉は火神がいようがいまいが似たようなことやってるだろ。あいつすぐに不機嫌になってプレイにでるから怖いんだよ」
「それは………その、すみません」
「あ、いや黒子が悪いわけじゃないぞ?」
「でも僕は火神君の相棒ですし…」
「…………ズルいよなー」
「…………ムカつくなー」
「え。」


いつもよりゆったりと、そして遠回りして歩く木吉に伊月は何も言わなかった。黒子も疑問には思ったが、聞いても上手くはぐらかされるのだろうと早々に結論づけてのんびり3人で校内を闊歩する。



部室前にようやく着くと木吉はふわりと黒子を降ろす。伊月がぽんぽんと黒子の頭を撫でてからノックした。それから、どうぞ、と何故か伊月に促されドアノブに手をかけ、そして開ける。





「カントク、すみません。遅く、」



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