長編

□くろたん2013━誠凛編━
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パーンっ!!


あちこちから音がして七色の紙吹雪が宙を舞う。
ぱちりと大きく瞬きをするとそこにはバスケ部全員が集まっていて。


「「「「「「「「「「黒子(くん)!誕生日おめでとう!!!」」」」」」」」」」
「わんっ」


部屋中ぐるりと囲むように飾られた折り紙の輪っか(よく見ればそれは広告だったが)、そして『1月31日 黒子テツヤ Happy Birthday!』と書かれた大きな模造紙。机に所狭しと並べられたのはたくさんの料理(チーズバーガーに納豆、鉄火巻き、セロリ、それからコーヒーゼリーにどら焼き、バームクーヘンと料理とは言い難いものもあったが)。真ん中には2号の顔をした特大ケーキ。



「…………っ、」


「黒子、おめでとー!」
「これ、各自で持ってきたのもあるのけどその他のは水戸部くんと火神くんが作ってきてくれたのよ。私もセロリだけじゃなくて何か料理も持ってこようとしたんたけど…」
「え!…あ、いや、カントクは飾り付けしてくれたからそれで十分っすよ」
「でも……ケーキだって作りたかったのに……」
「いやいや、ロウソク差してくれたじゃん!」
「ほら!黒子、座った座った!」



未だドアの前で呆然と立ち尽くす黒子の前に日向が立つ。

「黒子!ボーッとしてんな!ほら早く」
「日向、せんぱい………」


日向が黒子の方へ手を伸ばした。それより先に黒子が、ひしっと日向の腰に手を回ししがみつく。


「え?!く、黒子?!」
「ちょ……!キャプテン!黒子を離しやがれ!……だ、です!」
「日向のムッツリー」
「日向サイテー」
「日向くんへんたーい」
「日向死ね」
「キャプテン……!」
「ちょ、お前らうるせぇ!………黒子?どうした?なんかあったのか?」


日向が声をかけると同時にすんっと鼻をすする音がして、部室はしん、と静まり返った。


「………黒子?…あー……えーと、」
「………嬉しい、です」
「え?」
「もう、誰かにこうやって祝ってもらえる、なんて、思ってなかったので。その、嬉しくて、」


どうしたら良いかわかりません。と呟くその声は少しだけ震えていた。
その理由がなんとなくわかってしまい日向たちは開きかけた口をまた閉じる。




待っていたのだろう。探していたのだろう。
彼らが変わってくれることを。

しかしその願いは届かず、黒子から手を放すことしかできなかった。ならば、自分が敵となって彼らの目を覚まさせてやるしかない。味方じゃ、もう、黒子の存在すらも無意味だったのだ。
それでも、自分のバスケを認めさせると豪語したはいいが、それはチームメイト次第でもある。
だからこそ、不安だった。怖かった。ポーカーフェイスの仮面の裏にたくさんの想いを抱えてここまできた。
━━━━━━もしかするとまた、自分は必要のない存在になってしまうのではないかと。




音一つ立たない部室で、がたりとイスを引く音が響く。日向が腰に黒子を引っ付かせながら、首だけをそちらに向けた。



「………させねぇ、よ」
「火神?」
「お前が嫌だっつってもオレはお前を離さねーし側にいる。……つーか、相棒だろ。んなもん当たり前じゃねーか」
「そうよ黒子くん。それに大事なチームメイトの産まれた日を祝わないでどうするのよ」
「オレたちは黒子がいるからここまでやってこれてんだぞー?いい加減少しは自覚しろって!」
「黒子、笑ったらかわいーんだからもうちょっと笑ってくれると嬉しいんだけどなー」
「………木吉、それなんかチガウ」
「"一人はみんなのために。みんなは一人のために。"それがオレたち誠凛バスケ部だろ?」


火神に続いて皆が思い思いに喋りだす。そして最後の日向の言葉にようやく黒子が顔をあげた。うっすらと膜の張ってるのを見て、日向は眉を下げて黒子の柔い髪を指で梳く。



「…黒子。あのな、もっとお前は、信用して、安心して、頼って、総てを曝け出していいんだぞ。お前のワガママぐらいオレらは受け止めきれる自信がある。…もう独りなんかじゃないんだからな」
「っ…………」
「━━━━━だから、誇れ。誠凛バスケ部であることに。言っとくけどお前らもだぞ!…おら、返事は!!」
「…………は、い。」
「「「「うっす!!」」」」
「いーことゆーじゃん日向くんも!」
「おー確かに今のはキャプテンぽいなー」
「ぽい、じゃなくてオレはキャプテンだ!ダァホ!」
「ヒューヒュー!!日向かっこいー!」
「(こくん)」
「ヒューヒュー日向………はっ!!」
「はいはい伊月くんストップ!━━━さ!昼休みも終わっちゃうわ!早く食べましょう!」


リコの一言にみんなが席に着く。それでもまだ離れようとはしない黒子に日向はため息をついた。正直なところ、滅多に甘えてくることをしない後輩に甘えられるのは嬉しい。……嬉しい、が如何せん腹も減ったし、火神からの眼力でさっきからぎりぎりと胃が締め付けられているような気がする。



「おーい黒子?ほら、行くぞ」
「…………あと、ちょっとだけキャプテンが恋しかったです」
「「「「「えぇえええぇええええ?!」」」」」
「は?!お前ほんとにどうし「僕じゃ……2人同時には、さばききれませんでした……」


そう言ってぐったりした黒子を見て、まだドア付近にいた伊月と木吉を日向は見やる。それだけでなんとなく理解してしまって、今度は本気で黒子を哀れんだ。



「………あいつらに行かせて悪かったな。適任がいなくてさ………。おい!木吉!伊月!お前ら今日のメニュー3倍だからな!」
「ええっ?!なんで?!」
「横暴だぞ日向ー……まあそうだな、黒子のこといっぱい触れたから役得だったと思って………よし!わかった!受けて立つぞ!」
「てことで鉄平は5倍ね!」
「ええ?!」




わいわいとはしゃぎながらも黒子に、たくさんの料理があちこちから差し出される。前に、火神の家でごちそうになったときおいしいと絶賛した酢豚もあって嬉しくなった。
それからプレゼントが渡された。この料理がプレゼントだと思っていた黒子はぽかんと周りを見渡す。一年生からはバニラシェイク10杯無料券とタオル、先輩たちからはバニラシェイク10杯無料券とバスケットボール、リコからは黒色を基調とし、赤のラインが端に入った手編みのマフラー。


「っあ、ありがとう、ございます…!!」

「ちょ!カントク?!クオリティーすっげー高いんだけど!」
「ええ?!てか編み物なんかできたの?!」
「ふふふふ!舐めてもらっちゃあ困るわ!なんてったって可愛い黒子くんのためだもの!頑張ったわよ!」
「オレたちに作ってくれたことないじゃんー!」
「だってあんたたちに愛なんてないもん」
「ひどっ!じゃあ水戸部ー今度オレに作ってー!」
「(ふるふる)」
「…水戸部めっちゃ嫌そうに首振ってんぞー」
「あっ先輩たちとバニラシェイクの券被っちゃったすね!」
「あれ。ほんとだ」
「だって黒子と言ったらバニラシェイクだろー」



わーわーとまた騒ぎ出したみんなに見えないよう、黒子はもらったプレゼントに顔を埋める。


嬉しい。どうしよう。口元が緩むのが止まらない。

この時間がいつまでも続けばいいのに、と思ってしまうほど。一生忘れられない思い出になるはずだ。
ありがとうございますとそっと口にだす。それは誰の耳にも入ることはなかったが、皆の顔が笑顔で溢れていた。…きっとそれが答えなのだろう。


(久しぶりです。こんな気持ちになれたのは、)


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