企画

□それは男の矜持
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※さち子様リクエスト
※安形先生に手懐けられる問題児キリ





高校生にもなると、自我を強く持ちすぎて面倒になる生徒も多い。個性と言えばそれまでなのだが、それが周りに影響を及ぼすとなると話は別になる。

「コラ、加藤!また他校の奴等と喧嘩したらしいな。職員室に来い!」

生徒指導の教師の声が飛び、加藤と呼ばれた銀髪の生徒は苛立ちを隠そうともせずに大きく舌打ちをかました。どうせ理由も聞かずに頭ごなしに怒るのだ。教師など所詮そういう生き物だと、加藤はうっすらと地肌が見える教師の頭を一瞥した。

「安形先生もキチンと叱ってくださいよ。貴方が甘やかしているから、こういう問題児が付け上がるんですよ」

彼の視線の先に居た安形という教師は、その職にあるまじき緩い言動で有名であった。生徒からは慕われているが、同僚からの風当たりは厳しかった。安形はヘラリと気の抜けた笑みを見せて頭を描いた。

「いやー、いつもすみません」
「本当ですよ。大体ね、あなたは生徒のご機嫌取りばかりして、肝心な指導は何一つやらないじゃないですか。ご自分のクラスの生徒くらい、キチンと指導してくださいよ」

その教師の説教はいつの間にか安形に向いている。加藤は手持ち無沙汰になり、ただぼんやりと突っ立って話を聞く形になってしまった。安形はそんな加藤に目配せし、「行っても良いぞ」と口の動きで伝えた。そして、ガミガミと口喧しい教師に向き直ると、

「コイツには後で俺がよーく言っておきますんで。今は授業もありますし、見逃してやってくれませんか」
「仕方ない…頼みますよ」

教師は渋々といった感じで解放してくれたが、安形に気に入らなそうな視線を送っている。安形は肩を竦め、文字通り加藤の背中を押して教室に送り届けた。訝しげに眉を潜める加藤に、安形は笑った。

「あんまり派手にやるなよ。色々と面倒だろ?」
「………フン。俺に命令するな」

冷たい態度を見せられても、安形は困ったように笑うだけだ。加藤はこの安形という教師が苦手だった。他の教師とは違うと理解していても、何故か気に食わなかった。

「おい、加藤!もうチャイム鳴ってるぞー」

赤いトンガリ帽子のボッスンが、いつまでも席に座ろうとしない加藤に声をかけた。



帰りのホームルームに現れた安形は、顔に大きな絆創膏を貼っていた。ざわつく教室で、安形はいつもの緩んだ笑顔を見せる。

「いやぁ、何か色々と派手にやらかしてなー。大した怪我じゃないんだが…」
「カノジョにビンタされたのかー!?」
「なっ、ちげーよ!つーか仕事中だろ!」

悪乗りした男子生徒の言葉と、それに対する安形の反応を見て、爆笑の渦に巻き込まれる教室で、加藤は1人神妙な顔つきで座っていた。
解散のあと、加藤は手招きをする安形の元にたった。どうせまた説教だろう。

「加藤、昨日M高の奴等と喧嘩したんだってな」
「だから何だ。説教なら聞き飽きてるぞ」

喧嘩腰の加藤に安形は苦笑して、頬を掻いた。

「や、そうじゃねーよ。怪我とかしてねぇかな、って気になっただけだ」
「………は?」
「結構バットとか鉄パイプとか、ヤンキー漫画みたいな喧嘩だったんだろ?いくら負けなしの加藤でも流石にキツかったんじゃね?」

加藤は思わず間抜けな声を発した。油断させるつもりなのだろうかと疑ってみるが、安形の表情は読めない。「見た感じ大きい怪我は無さそうだけどな」等と言いながら安堵の息を漏らす安形。加藤は調子を崩されたような気になった。
ふと、安形の腕を見やると、袖の隙間から何か包帯のようなものが見えた。加藤は目を細める。

(………怪我、か……?)

よくよく見れば、顔にも絆創膏以外に痣が見え隠れしている。何故安形がこのような怪我を負っているのか疑問に思ったが、さして気にするようなこともしなかった。どうせ、自分には関係の無いことなのだ。

「話は終わりか?俺はもう帰るぞ」
「おう、気を付けろよ。あっ、そうだ」

踵を返した加藤の背に、安形の声が掛けられた。

「お前から吹っ掛けるような喧嘩は無しだぞ。もし売られても怪我とかすんなよ」
「!」

表情は緩いままだが、目が真剣に加藤を見詰めている。

「……フン」

加藤は一瞬足を止めたが、すぐにまた歩き出した。








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