物語、広がる、彼らの世界

□翼の生えた船長
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まるで時間なんて流れてないみたいだ。
ここに座っていると思う。住宅街の真ん中にある公園のガムと錆びと落書きで飾られたベンチ。ビールの空き缶や煙草が遊泳する池の前(茶色のフィルターの煙草
に関しては俺の責任なのだが)。
ここに座るようになってから結構たったはずだ。初めて座った時は地味な色のコートを着込んでいて今は半袖だから、少なくとも季節を一つか二つか通り越している。
なのに、まるで時間が過ぎていない。理由は明白だ。ここで過ごす時間があまりにも空白だからだ。ハンバーガーをかじりながら、あるいは煙草をふかしながら
ただここから不健康な緑色をした池(なのにこの池に不釣り合いな程鮮やかな橙と白のまだらの鯉は悠々と泳いでいる。どうやら環境適応能力の特許を取ったらし
い)を眺めるだけ。何を考えていたかなんて、てんで思い出せない。
俺はラッキーストライクを口許まで持っていき、気が乗らずに池に放った。これで5本目。まだ一日平均の半分にも満たない。夜闇の中を火種が空中で回転し、奇妙な軌跡(アインシュタインもびっくりだ)を描きながら池に飛び込み、情けない音と共に鎮火した。あとは、先に来ていた奴らの仲間入り、プカプカと有害物質を溶かしながら遊泳するだけだ。なんともつまらない。
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