兎文他
□【半神】
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暗い。
目は開けている。
開けていると、思う。
手を動かす。
左手であるはずの部位。
ひどく遠い。
これは、自分の腕か?
痺れ強張る腕を浮かせ、関節を曲げ、左手を顔まで持ち上げる。
「浮け」「曲がれ」「上げろ」と強く意識する。
脳の命令系統に意思を走らせることに集中してやっと、左の目元へ指先を遣る。
音が聞こえる。
微かにだが、声だ。
う ごい たぞ
動いたぞ。
何を言ってる?
わからない。
ああ、頭の中がグシャグシャだ。
脳が溶けて、厚い膜が張ってるような、
重くて、暗くて。
声が遠くなる。
どうなってる。
指先が触れる。
何に触っているのかわからない。
まぶた?睫毛?眼?
全部同じ感触だ。
わからない。
触れたそのまま下に指先をなぞらせていく。
硬いものに当たった。
何だ?
動作は放っておいてもゆっくりだ。
指先に感覚を集中させることだけに意識の全てを捧げ、触れたものの正体を探る。
細長い、楕円、金属?
両端がくるりとカーブを描いて、繋がっている。
耳の上、軟骨のあたりにそれが刺さっている。
安全ピンか
じゃあ
これは
俺なのか
微かにまた声が聞こえた。
今度は、聞き慣れた声だった。
兄ちゃん。
なんだ
お前
そこに居たのか。