兎文他
□【半神】
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母親は、少しいかれた女だった。
生んだ子供は男の一卵性双生児だったが、
見分けが全くつかなくて困る、と言って双子の片方の左耳に、目印にと安全ピンを付けた。
まだ新生児の時のことだ。
しかしそんなことをせずとも
成長するにつれて二人の見分けは容易になった。
兄はその感情だけを凝縮して生まれてきたかのように極めて怒りっぽく、
弟はその感情全てを兄に奪っていかれたかのように穏やかで物静かだった。
顔はそっくりだったが、兄の眉間には幼児の時からくっきりと怒り皺がついていた。
そんなきょうだいだったが、仲は良かった。
ほほえましいいかれ方では無かった母親の奇行に、きょうだい二人で対応しなければいけない。
結束は強くなった。
母親は時折錯乱してきょうだいに拳を上げた。
殴られるのは怒り顔の兄のほうで、沈静して泣きながら謝罪の言葉をかけるのは弟のほうだった。
弟はいつもそのことを気にしていたけれど、
兄は平気だった。
弟が殴られないならそれで良いと思っていた。
二人はいつも一緒に居た。
いかれた母親の腹の中に居たころからずっと
一緒に居た。