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そのつま先に口付けを
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*そのつま先に口付けを*

唐突に降りだした雨を吸って重くなった上着を放りながら、ランドリーから適当なバスタオルを何枚か掴み玄関に早足で戻る

びっしょりな髪や制服からポタポタと落ちる水滴が床を濡らすのをだいぶ気にして、最早役目を果たせない程に水分を吸ったハンカチで自分よりも床を拭き取ろうとする小日向をバスタオルで包んで体ごと抱き締める。

「あ…冥加さん、また濡れちゃいますよ?」
「構わない、どうせ俺も元から濡れ鼠だ」
湿って冷えて、2人重なった布越しから少しずつ小日向の体温が伝わってくる。
小日向にも、俺の体温が伝わっているだろうか。
すりっ…と頬擦りしてくる感触に愛しさが込み上げてくる。
感情に任せ加減も忘れて小さな体を抱き締める腕にぎゅっと力を込めたら、背中にそっと回されてた手がトントンと、胸元からは「ギブです…!ギブアップ…!」と掠れた声が洩れるので名残惜しいが慌てて緩めた。

俺はだいぶ小日向に甘いと思う。
この気持ちを自覚する事を恐れていたが、一度覚悟を決めてしまえば難しい事も多々あるが心に火が灯るような暖かい感情も悪くないと思えてきた。
むしろ、振り回されたいと思う時もある。
小日向が俺を見て笑う時、その嬉しさや幸せな気持ちが溢れそうな笑顔が、俺を想う気持ちがそうさせてるのだとしたら…そう思うと、自分も小日向への気持ちで表情が自然と柔らかくなるのがわかる。
この気持ちが伝わればいいとも思う。

とりあえず、この腕の中のびしょ濡れの恋人をどうにかしなくてはならない。
雨が降ってきた時点で、同じ濡れ鼠になるなら寮まで送り届ければ良かったのかもしれない。
でも突然の雨を避ける為に咄嗟に繋いだ手を離せなくて、急ぎ足は俺のマンションに向かってしまったのだ。

「小日向、靴を脱げ」
「え!?」
「え、じゃない。そのままで居る訳にはいかないだろう。早く上がれ」
「でも…」
気にする事など何もないのに、ぐずぐずに濡れた靴で戸惑うのが可愛さ余って憎さ何とかで、ぐいっと強引に脱がせにかかる。
きゃあ!と騒がしいが、風邪をひかれるより百倍マシだ。
スカートの裾を思いきり伸ばし掴んで真っ赤な顔をしているのを下から見上げて、俺はとんだ変態かと思われてるかもしれないが靴下も脱がせる。
風邪をひかれるよりは百倍マシだ。(そう思いたい)

初めて触れた小日向の素足は、驚く程にひんやりと冷えていた。
短く綺麗に整えられた爪、小さく華奢な作りの白い足。
これ以上体温が奪われないように、乾いたタオルで包み拭く。
騒いでいた小日向も、俺に他意が無いのが分かったのか黙ってされるがままになった。

そのうち
「冥加さん…!」
震えた声が降る。
「なんだ?」
伸ばされた指先が、足元に跪いた俺の頬をすっとかすめる。
「もう、大丈夫ですから!」

小日向は分かっていない。

耳まで真っ赤に染め上げて俺を見下ろす可愛い恋人に、俺がどれだけ想っているかを知らしめる為に更に身を屈めて。

その微かに桜色に染まるつま先にそっと口付ける。

愛情と尊敬を込めて、それからずっと俺を想って欲しいと願って。

そっと唇を離し、再び顔を上げたら、
!!冥加さんは本当にずるい!!」
と。
涙ぐみ、また抱き締めたくなるような表情の小日向を見たら、自分が今どんな顔で居るのか理解出来て、また心が熱くなるのが分かって思わず笑った。

end

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冥かな企画さまに、SSで参加させて頂きました!
ものっそい、ひなちゃん大好きな冥加さんになりました(笑)
冥加さんはお兄ちゃんですし、妹のお世話もしてきてる&長男気質で世話焼きだと思うのです。

素敵な企画に参加させて頂いて、本当にありがとうございました!

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