★過去作品★

□あんなに一緒だったのに
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気付けば、もう何度目かの春を迎えていた。



満開の桜の下で、群れにまみれた茶髪の小柄な少年を見つける。



今日は中学校の入学式。



雲雀は3階にある応接室の窓から、その少年の様子を見つめていた。


一人でとぼとぼと校門を潜り抜けたかと思えば、小学校からの持ち上がりのような環境だったためか、何人かがその少年に声を掛けて、次第にその少年も笑顔になった。





雲雀はその様子を見て、胸が痛くなった。





雲雀も綱吉も小学生になってから。

低学年の間は、二人で一緒に学校に登校していた。

綱吉も雲雀と一緒に学校に向かうこの登校時間は、安心したし心強かった。



しかし、雲雀が委員会に入ってからは違った。


朝も普通より早いし、夕方も帰る時間がみんなと違う。


次第に綱吉とも学校へは行かなくなった。



前みたいに、玄関前で「恭ちゃん!」と笑って、大きなランドセルを背負いながら走ってくることはなくなっていた。



綱吉も気を遣ったのだろう。



いつまでも雲雀のそばにいて、迷惑は掛けられないと…



それから、同じ学校にいても顔を合わせなくなって、それと同時に会話もなくなった。





そして雲雀が卒業して、今度は綱吉がこの中学校に入学してきた。






もしも、今声を掛けたなら、前みたいに笑ってくれるのだろうか。





雲雀は何度もそんなことを考えていた。




そして一人で行動するようになり、風紀委員の頭として秩序を守るようになってから…




綱吉に対する感情が、普通よりも執着していることが分かった。



それ以上は考えられなかった。












入学式を終えてから暫くして、雲雀はクラス名簿で確認した教室に向かって足を運んだ。

ホームルームが終わって一斉に教室から新入生が出てくる。


その中には一際目立つ茶髪の少年の姿が…




「綱吉」



雲雀は躊躇うことなく名前を呼んだ。


その瞬間、周りがシーンと静まり返る。



「あ、っ…」


綱吉も誰に名前を呼ばれたのかすぐに分かった。


綱吉は慌ててその群れから外れて雲雀の方へ駆け寄ってくる。



「お久しぶりです、雲雀さん!」



その慣れない綱吉からの敬語に、雲雀は反応した。

それに初めてだった、綱吉から「雲雀さん」と呼ばれたのは。



「…うん」



雲雀はそれに軽くショックを受けながら、返事をした。


さっきまでの期待は、完全に消え去ってしまっていた。


それでも雲雀は話し掛ける口実になるようにと、祝いの言葉を述べる。



「入学おめでとう、綱吉」



「はいっ、ありがとうございます!!」


綱吉は雲雀の言葉に嬉しそうな顔をして感謝の言葉を述べた。


(その笑顔だけは、変わらなくて良かったよ…)


雲雀は内心ほっとしながらも、触れずにはいられない綱吉の頭に手を置いて優しく撫でた。



「これからは君も中学生だ。ちゃんと勉強するんだよ?」


「なっ、大丈夫ですよ!」


「君のその根拠はどこから来るんだろうね」


「雲雀さんですよ。雲雀さんがいる限り、俺はいつでも大丈夫なんです!!」


「…意味分からないよ」


「まだ分からなくていいです」


綱吉は頬をほんのり赤らめながら、口を尖らせた。

そんな表情に、雲雀はキスしたくなった。


(…ん、キス?)


一瞬でも、綱吉にキスをしたいと思ってしまった自分の感情に首を傾げる。


そんな雲雀の感情とは裏腹に、綱吉は再度雲雀と目を合わせると口を開いた。



「あの、今から友達と帰るので…また今度」


申し訳なさそうに告げる綱吉に、雲雀は頭から手を離す。


本当は、今日は一緒に帰りたかった。


入学式で、特に学校を見回った後することがなかったので、綱吉と一緒に帰れるだろうと考えていたが…



(友達、ねぇ…)



そりゃ、綱吉はいい子だから友達の一人や二人いてもおかしくはないんだろうけれど。


それ以前に、いつから雲雀より友達優先になってしまったのか、という疑問しか浮かんでこなかった。



雲雀は一日たりとも、こんなに綱吉のことを考えていて、今日だって綱吉が学校に来るのを楽しみに待っていたというのに…






雲雀の中で、何かが動き出した瞬間だった。






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