初恋

□恋歌を君へ・・・
3ページ/17ページ

第3話  菜の花の姫


 今,目の前に1人青年が立っている。
 誰?っというか,顔見られたぁぁ!

 「おい,,大丈夫か?」

 「,,,,,,,,,,はっ!」

 「大丈夫か?」

 目の前に,自分と年があまり
 変わらなく見える青年が,,,。

 「みっ,見ないでぇぇぇ!!!」

  あわてて,顔を隠す。
 
 「うぉっ!!!!!!」
 
 普段顔なんか隠したりしないのに,
 なんで!?
 というか,男の人すごく驚いてる,,。

 「あっ,あの,,,,。」

 「え,あ,,,なんだ?」

 「ごっ,ごめんなさい!!!」

 顔から手をはずして,扇を取り出す。
 そして,顔を隠し向き直る。

 「ごめんなさい。
  あの,驚かせてしまったみたいで。」

 「あっ,こっちこそ,女性に
  声をかけるなんて無礼だった。」

 「そっ,そんなこと。」

 「いや,そうだ。
  しかし,無礼ながら,そなたに
  声をかけてみたかったのだ。」
 
  驚いてちらっと,見てみると
  真剣な眼差しでこちらを見ていた。

  (悪そうな人では,ないわよね。)
  それにしても,初めてね,,,。
  父様以外の男の方と話したの。
  顔しっかり見てみたいな。
  よしっ!
  
 「あなた様は,素直なのですね。」

 そう言って,扇をどけた。

 「えっ,どけてもいいのか!?」
 
 「はい。
  もうお見になられたのでしょうし,
  あなた様の顔も見れませんし。」

 「あっ・・・・。」

 「ふふふ,,,。」
 
 そう言って笑うと,
 青年はこまったように頭を掻いた。
 
 「はははっ,,,」
 
 「そなたは,変わった女だな,
  俺,はじめて見た。」

 そう言って,笑って見せた。
 その,笑顔になぜか胸が高鳴った。
 (というか言葉遣い変わってない?)
 
 「よく,いわれます。
  それにしても,あなた様は,,,。」

 「俺か?俺は,藤原秋高だ。」
  

 「秋高さま,,,ですか。」

 「そうだ。」

 「よ,,,。」

 「んっ?」

 「よき名ですね。」

 「そうか?初めて言われたな。
  別に普通だろう?」

 「いいえ,あなた様は素敵です。」
 
 そう,言って笑って見せると

 「そなたも素直なのだな。」

 そう言って笑った。

 (はっ,,,,!!!)
 
 それを,見ると自分でも体が熱く
 なっていくのがわかった。
 顔も赤くなっているだろう。
 それを,あわてて袖で隠す。

 「すっ,すみません。違うのです!」

 「違うのか?」

 少し悲しそうな,声で聞いてくる。
 顔は,見えないが。

 「そっ,そうではなくてですねっ」

 「ふううん,,,。」

 そう聞こえた瞬間,体が引き寄せられた
 
 (なっ何がおこっているの!?)
 
 顔をあげると,自分の顔のすぐまえに
 秋高のそれがあった。

 「顔は,隠さないのではなかったか?」

 「なっ,何をなさるのですか!!」
 
 離れようとしても,力が強くて
 離れられない。

 「いや,そなたが,かわいくてな。
  それに,顔を隠すからだ。」

 「かっ,かわっ・・・!!!」

 ”かわいい”といわれたことに
 結は硬直した。

 そしてさらに,ぎゅっと抱き寄せ
 られた。
 
 「おっ,お離しください!」

 「いやだ。」

 「”いやだ”,ではありません!」

 それを聞くと,名残惜しげに秋高は,
 体を離した。
 すぐさま,結は扇を出し顔を隠した。

 「なぜ,また顔を隠すのだ。」

 「あなた様は,女の敵です。」
 
 「むっ,なぜだ?」
 
 少し,不思議そうに聞いてくる。
 (わかってないな,この人は,,。)
 この,性悪男!!!

 「あなた様にはもう顔を見せませぬ。」

 そう言うと,結はきびすをかえした。
 
 「では,お元気で。失礼いたします。
  藤原秋高様。」

 「お,おい!そなたの名前は!!」

 遠くで声が聞こえた。
 名前なんてそう簡単に答えるものか!
 でも,なんにも答えないのも悪い。
 名前,,,,,,。

 「お好きにお呼びください!!」

 そう叫ぶと,

 「菜の花。そなたは,菜の花姫!!!
  どうだ!?」

 菜の花,,,,。
 母様との思い出の花,,,。
 
 聞いた瞬間おもわず振り返っていた。
 もしかしたら,少し顔が見えていたかも
 しれない。

 「!!!!!」

 気がついていたら,涙を流していた。
 母親が,この世からいなくなって,
 寂しくて泣いていたとき。
 菜の花が少しずつ気持ちを和らげて,
 母親と過ごした思い出を心に残してくれ
 た。大切な大好きな花なのだ。
 その,花の名を私につけてくれると。
 
 「本当に,本当に,,,。」

 秋高は,おろおろしていたが,
 意を決したようにこちらに近づいて来た

 「お,おいどうして泣くんだ!?」
 
 涙がなかなか止まらない。
 なっ,なんでっっ!

 「っ,,っ,なんでもな,,。」
 
 ふわっ,,,

 結の体中に人のぬくもりが広がった。

 「すまん。そなたが俺を嫌いなのは,
  わかってる。
  でも,”なんでもない”なんてこと
  は,ないんだろう?」

 結は抱きしめられながらぼんやり考えて い た。
 この人は,実は優しい人なのかも。
 まぁ少し,強引なところはあるけれど。
 
 「偶然にしても,縁があったのだ,
  ゆるせ。」

 「本当にあなた様は分かりません。」
 
 抱きしめられていて顔は見えなかったが
 秋高が笑っているように思えた。
 結も泣きながら笑っていた。

 「んっ,なんだ?そなた,笑っている
  ではないか。」

 「笑ってなどいませぬ。」

 「いいやそなたは笑った。」

 「いいえ。」

 「そなたこそよく分からん。」

 「なにがです?」

 疑問に思って尋ねてみると,
 秋高は,東の空を見つめていた。

 「菜の花姫には,教えてやらぬ。」

 そう言って結からそっと離れた。
 
 「きれいな,朝日ですね。」
 
 そう言いながら少し秋高を見ていた。
 朝日に照らされた彼の顔をみれば,
 胸の高鳴りが体中に響いた。

 「ああ,朝が来る。」

 そう答えた,秋高の声が結の頭に残った
 まだ,気付かない恋の始まり。

 「そういえば,つっぱねなかったな?
  俺のこと。」

 そういって,にんまり笑った。

 (こっ,この人は,,,,!!)

 「もう,あなた様など知りません。
  赤の他人です。」

 「しかし,縁はあったぞ。菜の花姫。」

 「えっ,なんのことですか?」

 あくまで,とぼける。

 「なっ,,,。」

 「なんですか?」

  
 この時,結はまだ知るよしもなかった。
 まさか,あんなことになろうとは。

 
  
 

  
 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ