初恋

□恋歌を君へ・・・
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  第4話 心の中に,,,
 
 
 ごそごそと,楓が起きだす頃,
 結は,いち早く庭を掃いていた。
 
 「楽しかったわ,,,。」

 そっと,呟く。
 ”男の人”というものはおもしろい。
 それに,はじめてしゃべった。

 「なにが,楽しかったのですか?」

 あきれ果てた声がした。

 「あっ,楓おはよう。」

 「おはようございます。でっ?」

 「ん?何?」

 「何が楽しかったのですか?」

 まずいっ!!
 楓にばれちゃまずい!!
 「屋敷から出ちゃった。」,,なんて
 いっ,言えない。

 「えっ,ゆ,夢の話!!!」

 「本当にそうですか?」

 目をそむけそうになりながらも
 いいはる。

 「ほっ,本当よ!」

 「そうですか。なら,いいんです。」

 (あっ,あぶなかった!!!)
 ほっと,胸をなでおろす。

 「楓,父様は帰ってこられたの?」

 「お殿様ですか?いいえ。」

 「そうなの?まだなの。」

 「ええ。珍しいですよね。」

 「うん。ねぇ,文は?」

 「ありません。」

 めったに,こんなことはない。
 仕事が詰まっていたとしても,文は,
 ちゃんと,くれる父だ。
 (よっぽど,大変なのかしら?)

 「そのうち,かえってこられますわ。」
 
 「うん,そうよね。」

 「姫様,中に入りませんか。」

 「あっ,うん。」

 *****************

 ー同時刻 藤原邸ーーーー

 「秋高兄さまぁぁぁぁぁ!!!」

 弟の雪成が駆けてきた。 
  
 「おう,今帰った。」

 「どこに行ってらしたんですかっ!」

 「少々,散歩に。」

 「心配いたしました。
  どこをお探ししても,おられないの   で。」

 「すまん。」

 「兄上,父上がおよびです。」

 「父上が?」

 「何か話したいことがあるそうです。」

 「そうか,雪成すまんありがとう。」

 「いいえ。」

 そう,言うと笑って歩いていった。
 それを,見送ると秋高は,父の
 部屋へ向かった。
 
 「父上,ただいま参りました。」

 「秋高か,入れ。」

 「失礼いたします。」

 膝をすすめると,父が座っていた。

 「遅くなって,申し訳ありません。」

 「いや,いいんだ。」

 「はい。」

 秋高は,さっそく話をきりだした。

 「あの,話というのは?」

 「おうおう,そうであった。
  単刀直入に聞くが,,,。」

 「はい。」

 「秋高よ,好いてる女はおるか。」

 (は,,,,,,????)

 「どういうっ!!!!」

 「そちも,もうよい年頃じゃ。
  結婚もいずれせねばならぬ。
  そちは,長男だしな。」
 
 (まさか,こんな話とは。)
 驚いた。
 
 「のう?どうなんだ?」

 父が,興味しんしんで聞いてくる。

 一瞬,菜の花畑であった姫を思い出した
 
 「いいえ,”まだ”おりません。」

 「そうか,ならばよい。」

 「話は,以上ですか?」

 「あぁ,もう下がってよいぞ。」

 (えっ,それだけなのか?)

 「で,では,失礼いたします。」

 父は,そんな
 お辞儀をし下がる,息子を見て,
 笑った。

 (まったく,おかしいものだ。)

 秋高は,そんな父の笑みに気付か
 ないまま。
 父の部屋を後にした。

 「おい,誰かおらぬか?」
 
 「はい何でしょうか道隆様」

 「急ぎでこの文を送れわが友の屋敷    へ。」   

 「はっ,承知致しました。」

 「頼んだぞ。」

 それを聞くと,使いの者は下がった。

 「嘘が下手だな,わが息子は。」

 (”まだいない”,,,のぉ?)

 まぁ,今はそういうことにしておこう。
    
 道隆は,立ち上がり御簾を上げ空を見た

 曇り,今にも雨が降り出しそうな空だっ た。

 「友よ,,,,。」
 
 一人呟いたその声は,降り出した雨音
 にかき消された。


  *   *    *

 「姫様,雨が降ってきましたね。」

 「そうね。」

 そして,少し耳をすませる。

 (あら,かえるの鳴き声がする。)
 
 「ねぇ,楓?」

 「何ですか?姫様。」

 縫い物をしながら,楓が話す。
 
 「寂しい,,,わね。」

 「どうされたのですか。急に。」
  
 縫い物をやめて楓がこちらを向く。

 「雨が降っているからかしら,
  なぜか,寂しいの不思議ね。」

 「それは,姫様が縁に,,人に関わろう
  としているからですわ。
  何かありましたか?」

 人に関わる,,,かぁ。
 思えば今日秋高様に会うまで
 人と関わっていなかったような気がする
 友達もいない。

 「ううん,大丈夫よ。
  何を縫っているの?」

 「姫様の,単ですわ。
  ほつれているところがあったので。」

 「楓は何でもできてしまうのね。」

 「当然ですわ。姫様の女房ですもの。」

 「そっか。」

 「それに,姫様の”友達”ですわ。」

 ”友達”という言葉に思わず泣きそうに  なった。
  なぜ,楓はほしい言葉をくれるのだろ  うか。
  
 「ありがとう。楓。」

 「当然ですわよ。姫様。」

 そう言って楓はまた縫い物に目を落と  す。

 (秋高様,,,,,。)
 
 そっと,目を閉じる。
 いつかまた,会えるだろうか。
 はじめて,話した男の方。
 そして,優しい人。
 
 「今日の姫様何だか一段と,,,。」

 「えっ,何?」

 「いいえ。」
 
 楓は,心の中で思うのだった。

 (お綺麗です。)


 (いつか,またあの方に会えますよう。)

 結は,ふと思った。
 そしてまた,目を閉じる。

 雨音が,さらに激しくなったような,
 そんな気がし不安になった。

 けれど,,,,。

 『菜の花の姫』

 思い出すたびに,胸が温かくなった。
 そう,不安な気持ちさえ打ち消すほどに
   
 「ありがとう。」

 最後に結はそう思った。
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