初恋

□恋歌を君へ・・・
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第5話 約束

 今,私はある大きい屋敷の前に
 楓とともに立っている。
 

 〜それは,1時間前のこと〜




 結の屋敷に1つ文が届いたことが,
 始まりだった。

 「ひ,姫様,,,これは,,,。」

 「藤原家の家紋よね,,,。」

 なぜ?,,,なんで?
 この文を家の者から受け取った時
 思わず,失神しかけた。
 なんで,こんな名もない我が屋敷に
 天下の大貴族藤原家から文がっ!!
 わたしに,友達が居るわけでもないし。

 (まさか,父様,,,,。)
 
 んなっ,ことないないっ,,。
 いくら,人望があつい父様でも,
 さすがに,,,,,。
 
 「楓,ちょっと開いてみてよ!!」

 「なっ,そんな訳にはいかないですよ」
 
 「いいじゃないのよ!」

 「いいえ,だめです!」
 
 「だって,開けるのは怖いもの!」

 「わたくしだってですよ!」

 「そんな,,,,。」

 「さぁ,姫様開いてください!」

 譲らないといった顔で,こちらを見る。
 
 「わ,わかったわよぉ〜。」

 文を開いて,内容を読んでみた。
 楓も上からのぞく。
 
 (最初から,楓が開けばいいじゃない。)

 
 ”拝啓 藤咲家の皆様方
  いきなりの,文で申し訳なかった。
  実は,急ぎ話したいことがあるの    だ。
  我が屋敷に来てはもらえないだろう   か。
           藤原道隆   ”

  読み終えて一拍後,,,,。

 「か,楓大変よ!あの道隆様からよ!」
 
 「はい,あの道長様の兄君の!!」

 「えぇ,間違いないわ!」

 「姫様,早くいきましょう。」

 「えっっっ!!!」

 「行くしかないじゃないですか!」
 
 「そうだけどっ,,,,!」

 「何かありますか?」

 「私,,何かしたかしら,,,!?」
 
 「してませ,,,んよ。」

 「なにその間!」

 「もぉ,いいじゃないですか!」

 「”いそぎ”,,,。」
 
 「はい。」

 「いくわよっ!!楓!」

 「はい,行きましょう姫様!!」

 「その前に,着替えなくてわっ!」

 「なんで?」

 「牛車などないので,,,,。」

 「歩いていきます。」

 「えぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 
 
  

 〜1時間後 今現在〜
  
       藤原道隆 邸前
 
 「姫様,大きいですね。」

 「そうね,,,,。」

 「やめますか?」
 
 「そうは,いかないでしょう。」

 「そうですよね,,,,。」

 二人は,かなりびびっていた。
 なんせ,二人とも訪問は,
 初めてなのだから。
 
 「どうすればいいのかしら?」
 
 「さぁ,,,黙って敷地内に。」
 
 「さすがにそれは,だめでしょうよ。」

 「ですよね,姫様。」

 ふたりが困っていると,

 
 『菜の花の姫?』

 
 驚き振り向くと,
 そこにいたのは,,,,。

 
 「あ,秋高様!?」

 「なっ,なぜそなたがここに!」

 「こちらこそ,なぜあなた様がっ!」

 「姫様,この方は,,,。」

 「へっ????」

 「道隆様のご子息様ですっっ!!!」

 「へぇ,,,,えっ。」

 (今,なんと?)

 「姫様,ご子息様です。」

 頭の中が真っ白になった。
 そのまま,意識が遠くなり,,,,。
 
 「姫様っ!!!」
 
 楓の悲鳴が,,,。

 「菜の花の姫!!!」

 秋高様の叫び,,,,。

 それを最後に,
 結は,目を閉じたのだった。

      ・
      ・
      ・ 

 ぱちっ,,,。

 (あれ,ここどこ?)

 見たこともない天井,,,。
 私,文もらって,,,,。

 「姫様っ!目をさまされましたかっ!」

 持っていた桶を投げ出して楓が駆け寄っ てきた。

 (あっ,,,水が,,,。)

 「,,,あれ,楓,私どうし,,。」

 「姫様倒れられたのですよ!」

 「えっ,私が,,,?」

 「そうです。今は,道隆様の屋敷の
  部屋をお貸ししていただいて。」

 「はっ,そうだったわ!
  確か,秋高様に会ってそれで,,。」

 「そういえば,姫様ご子息様と
  お知り合いだったので?」

 「えっ,,,あっまぁ,,,。」

 (全く知らなかった。)

 「そうでしたか!」

 (はぁ、、、。)

 「うん。さぁ行くわよ。」

 「どちらに,,,?まさか,姫様!」

 「そう,道隆様の所へよ。」

 「なりません。」

 「なんでよ。御礼に行くの。」

 「しかし,,,。”姫”なのですよ?」

 「あら,そんなの関係ないわよ。」

 「ですが,,,。」

 すると楓がすごく心配そうな顔をした。
 体のことを心配してくれているのであろ う。

 「なんて顔してるのよ,大丈夫よ。」

 そういって笑ってみせる。
 
 「そうですか,,,?」

 「うん。大丈夫よ,それにね,
  やっぱり礼儀って大事だと思うの。」

 こうなると,止められないことを
 分かっている楓は諦めたように息をつい た。

 「では,姫様ゆっくり行きましょう。」

 「そうね。分かってくれてありがう。」

 
 道隆の部屋へ行くと,道隆が
 座っていた。
 驚いた顔をしている。
 
 (まぁ,当然か。普通はおつきの者が,
  来るのだから。)

 「お?,姫様,驚いたぞ。
  体の具合はどうなのじゃ。」

 「おかげさまで,大分良くなりまし    た。」

 「そうか,それは良かった。」
  
 そう,言って道隆は笑った。

 「この度は,部屋をお貸しいただき
  ありがとう存じます。」

 「いやいや,よいのだ。」

 「申し遅れました。私,,,。」

 「知っておるぞ。」

 「はい?」

 「そなたは,結姫であろう?」

 「そ,そうでございます。なぜ,私の
  名を?」

 「そなたの父,藤咲是人(これひと)から聞  いておる。」

 「父を知っているのですかっ!?」

 「あぁ,友人だからな。」

 結の驚いた顔を見た道隆はまた笑った。

 (愛らしいのぉ,,,。」

 結も違う意味で心の奥で笑っていた。

 (まさか,とは思っていたけれど。)

 「あの,,,,。」

 結は思い切って口を開いてみた。

 「あの,藤咲家に御用とは,,,。」

 「おう,そうであった。」

 「あいにく,父が留守で,
  私が来た次第にございます。」

 「そのことなんじゃ!!」

 「はい?」

 すると,道隆は側近を呼んだ。

 「秋高をこれへ。」

 すると,側近は楓と周りの女房たちを
 下がらせ,秋高を呼びに行った。

 (んっ?どうしたのかしら。)
 楓も下げるなんて。

 数分経たぬうちに,走ってくる足跡が
 聞こえてきた。
 おまけに,声も。

 『姫が,目を覚ましたのか!』

 秋高様の声だ。

 「失礼いたします。父上。」

 お辞儀をし顔を上げた秋高もぎょっとし た顔をしている。

 (まぁ,慣れたものだわよ。)

 「なっ,なぜ姫が此処に,,,!?」

 「姫が,みずから此処においでくださっ  たのじゃ。」

 「なぜ,お知らせくださらなかったので  すかっ!!此処におられるとっ!」

 (伝えていなかったのか。)

 「お?忘れておったわい。」

 「ち,父上,,,。」

 秋高は,額を押さえている。

 (まぁ,ドンマイね,,,。)

 すると,秋高が結の方を見た。

 「あの,姫,ご無礼を致しました。」

 「えっ,あっ,,,いえいえ。」

 「はぁ,,,,,,。」

 (まぁ,,,深いため息ね。)

 「あの,そんなに気を落とさないでくだ  さい。元はといえば私が悪いのです」

 「いえ,そんなことはっ!!!」

 「ごめんなさい。姫なのに,,,。」

 「そんなことは,ない!」

 いきなりの大きい声に結もさすがに
 驚いた。

 「姫は,父上にお礼を言いに来たのでょ  う。」

 「はい。そうです。」

 「あっ,すみません。」

 「お〜い。もうよいかのぉ?」

 道隆がにやにや笑っている。

 「あ,,,すっすみません。」

 「ちっ,父上すみません。」

 二人とも顔が赤くなった。

 「二人とも若いのぉ〜。」

 「いっ意味が分かりません。父上。」

 「ふふん。」

 「なんですか,,,その笑い方は。」

 「いいではないか。気にするな。」

 「それで,父上話というのは,,,。」
 
 「それはなぁ。秋高,姫の隣に座れ。」

 「は,はぁ,,,。」

 秋高が立ち上がり,結の横に腰を下ろす

 「あの,,,父上,,,?」

 「姫を,当分我が屋敷で預かろうと
  思ってな。」

 「えぇぇぇ!どういうことですかっ!」

 秋高も声を上げたが,結は声が出なかっ た。

 「どういうことでしょう。道隆様。」

 やっと出た声で結が言う。

 「うむ。是人が,帰ってないだろう。」

 「はい。確かに父は二日帰ってませ      ん。」

 「今,是人は出雲の地におるのだ。」

 「なっ,なぜですか!父になにか。」

 泣きそうな気持ちを抑えて必死に聞く。 
 「大丈夫じゃ,仕事のことではない。
  それに,是人は元気じゃ。」

 「そう,,,ですか。では何故?」

 「うむ,どうやら是人は誰かから恨みを  かっているようでのぉ。」

 「う,恨みを?いったい誰に。」

 「まだ分からん。」

 「そう,,,ですか。」

 「それで,姫に危険が及んではいけない  と是人がわしに頼んできたのじゃ。」

 『私の娘を,預かってもらえないだろう  か。』

 「,,,,,,とな。」

 それを,聞いた瞬間溜まっていた,涙が こみ上げてきた。

 「とぉさまぁ,,,,,。」

 「大丈夫。わしらが守るからのぉ。」

 「っ,,,,,ふぇ,,,っ,,。」

 「大切な友の姫君じゃ。」

 「姫,,,,,。」

 秋高が,心配そうな顔でこちらを見る。

 「っ,,,,くっ,,,,。」

 (あぁ,道隆様の前で泣くなんて。)


 「父上。姫とこの場を退いていいでしょ  うか。」

 (えっ,,,。)

 「ああ。」

 秋高はお辞儀をし,結の手を引いて立ち 上がった。
 そして,力強く手を引き廊下を歩く。


 「姫の名前言うの忘れておったわい。」

 二人が出て行ったあと気付いた道隆は
 再び言うのだった。
 
 「若いのぉ〜。」
 
 
 走っている二人はというと。
 
 「あの,秋高様,,,どうして。」

 「あの場で泣きたくないのであろう?」

 振り返らずに,そう,言った。

 (あっ,気付いていたんだ)
 
 それから何故か恥ずかしくなってうつむ いたまま手を引かれていた。

 「少し,庭に出ないか?」

 「はい。」

 小さい声でそっと言う。


 それから庭に出て少し歩いた。
 
 「さっきはすまなかった。いきなり。」

 「いいえ。うれしかったです。」

 そういって秋高に笑った。
 すると,秋高は頭をかいた。

 池にかかる橋の上を渡る。

 「菜の花の姫。」

 そう呼ばれて,視線を上に向ける。

 「そなたにまた会えてうれしかった。」

 心の中が,ふわっと温かくなった。

 「私もです。」

 「そうか。」

 また,池の水に視線を落とす。




 「俺もそなたを守るからな。」

 小さい声でそっと呟いた秋高の言葉に
 また泣きそうになる。
 なんとか顔を上げ,秋高と向き合う。
 秋高の瞳が真っ直ぐに結を見ていた。
 
 (なんか,光って見える。)

 前に,花畑で会ったときよりも。

 「どうした?」
 
 秋高が聞いてくる。

 「守ってくれるんですか,,,?」

 「もちろんだ。」

 結は自分から,秋高の手を取り,
 強く握っていた。

 「ありがとうございます。」

 呟く。
 とてもうれしかった。泣きたいくらい  に。
 秋高と出会ってから初めてだらけだ。


 握っている手を秋高が引き寄せる。

 (ん,,,,?)

 秋高の腕の中に抱きしめられた。

 「くそっ,かわいい。」

 「あの,意味がわかりませんが?」

 「あぁもぅ!俺も泣きそうなんだよ。」

 「えっ,え?何でですか。」

 「知らん。」

 「えっ,えぇ!!」

 秋高は,本当に泣いているようだった。
 
 「たぶん,菜の花の姫のせいだ。」

 「私の?」

 「姫の気持ちを考えると,,,。」

 「そんな,泣かないでくださいませ。」

 「止まらないんだ。」

 (やっぱりやさしいのね,この方は。)

 「秋高様。」

 静かに,ゆっくりと口を開く。

 「私は,大丈夫です。
  父のことすごく心配ですけど,
  きっと,父は帰ってきます。」

 「寂しくないのか?」

 「それは,すごく寂しいですが,
  秋高様が守ってくださるのでしょ    う?」

 秋高に抱かれたまま,そっと上を見上げ る。

 「最後に聞いてもいいか?」
 
 「はい。なんでしょう。」

 「怖く,,,ないか?」

 「怖くないですよ。」

 「そうか,,,。」

 秋高がそっと腕をほどく。
 その腕が少し名残惜しかった。
 それでも,結も体を離す。

 「泣くなど,,,失礼した。姫。」

 「いいえ。いいんです。」

 「そなたをきっと守ろう。」

 「よろしくお願い致します。秋高様。」

 そういって笑った。
 いくらか気持ちが晴れた。

 (不思議な気持ちだわ。)

 笑う秋高を見てそう感じた。
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