初恋

□恋歌を君へ・・・
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 第6話  今は,,,,,。  

 
 私が藤原邸にお世話になり始めてから
 はや一週間。
 少しずつ,この屋敷にも慣れてきた。
 それにこの屋敷の女房のみんなとも
 打ち解けてきた。
 けれども,,,私は少しぐれていた。


 「ねぇ,楓そろそろアレしても,,,。」

 「だめです。」

 アレとは,私の日課庭掃除よっ!

 「えぇ〜まだだめなのぉ〜?」

 「しょうがないではありませぬかっ!」

 「楓のいいたい事は分かるけど,,,。」

 要は,藤原家の皆様方をびっくりさせて はいけない,ということだろう。
 
 (なら楓がそばにいないときに,,,。)

 「あっ,姫様,私がいないときに,,,とか
  もちろん思っていませんよね。」

 (げっ,ばれてる。)

 「もちろん思ってないわよっ。」

 「なら,いいんです。」

 (恐ろしいわ。楓。)

 「じゃあ,今日は何をしようかしら。」

 この頃楓とずぅっっっっっとすごろくや
 お琴の練習や歌集を見たりの繰り返しだ ったのだ。

 「あっ,姫様今日は,,,。」

 「ごめん。姫に少しいいでしょうか?」

 御簾の向こうで秋高の声がした。

 (あぁ,,,,会話聞こえたかしら,,,。)

 楓がとっさに答えた。

 「何でしょうか。秋高殿。」

 「ちょっと何で楓が答えるのよっ!」

 「これが普通です。姫は気軽に殿方と
  話すものではありませぬ。」

 「くっ,,,,,。」

 「すみません。何でしょうか。」

 楓がいった。

 「今夜,この屋敷で宴が開かれるの    だ。」

 「存じ上げております。」

 「また,楓が答えるの?」

 「当たり前にございます。」

 「つまんない。私も久ぶりに秋高様と
  話しをしたい。」

 「いいかげん。諦めてください。」

 「あの,よいか?話をしても?」

 御簾の向こうから声がする。

 「はいどうぞ。」

 「楓,本当にだめ?」

 甘えるように言ってみる。
 秋高様が目の前にいるのに,
 それに,顔ももう見られているのに,
 隠す必要性なんてないわっ!

 「だめです。」

 カッチーン

 (もぉ,我慢の限界。)

 だいたい日のひかりを浴びないなんて
 私以外の姫君たちは何を考えているのか しら。頭おかしいわ。
 
 「,,ったら,,,自分から,,,,。」

 「姫様,,,,!?」

 立ち上がり御簾の方へ歩き出す。
 そして,御簾をくぐり秋高の前に立つ。
 
 「どう,,,したんだ。姫?」

 「少し日の光を浴びたかったので。」

 「そっ,,,そうか,,,。」

 「楓,少し下がっていてくれる?」

 「わかりました。」
 
 ややあきれ果てた顔をしながら,楓は
 下がった。

 (まったく,,,姫様にも困ったものだわ。)

 「行ったわね。」

 「菜の花の姫,,,俺はどうしたらいい。」

 どうも,戸惑っているようだ。

 「どうもしなくていいんです。」

 「そうか。」

 結は秋高の目の前に腰を下ろす。
 そして,秋高の目を見て笑った。

 「すみません。驚きましたよね。」
 
 「姫がこの屋敷に来たときから
  驚きっぱなしです。」

 秋高も笑う。

 「もう,慣れました。」

 「それもそうですね。本当に。」

 「姫に話があるのです。」

 秋高の表情が真剣なものに変わった。

 「今夜この屋敷で,急に宴が開かれるこ  とになったんだ。」

 「はい。存じ上げております。」

 「それで,,,その,,,。」

 「何か,いいづらい事が?」

 「今日,その宴に東宮様がこられるの   だ。」
 
 「えっ,東宮様が,,,?」

 東宮といえば,時期帝になる人が, 
 たまわる位だ。
 その時期帝が,このお屋敷に,,,。

 「すっ,,,すごいですね。」

 「まぁ,すごい事なのだが,,,。」

 「どうしたのですか?」

 「いや,姫が見つかったら大変だな    と,,,。」

 「あっ,そうですね。
  この屋敷に私がいることは秘密。」

 「すまぬ。そなたの行動が目立たなけれ  ばいいのだが。」

 「では,今日は部屋の中にいます。」

 「そうしてくれるとありがたい。」

 「わかりました。」

 「それに,そなたを東宮に見られる
  のは,いやだからな。」

 「はい?」

 「んっ?いっいやなんでもない!」

 秋高の顔が少し赤いのを結は気付かなか った。

 (東宮様かぁ,どんな方なんだろう。)

 「そういえば,姫は,日の光を浴びたい  といっていたが。」

 「はい,元の屋敷にいたとき,日の光を
  たくさん浴びるためによく庭に出てい  たんです。」

 「そうなのか。」

 「屋敷には,誰も来なかったので。
  毎日暇だったんです。」

 「近しい姫も?」

 「,,,,,,,,,。」

 「,,,,,,,,,。」

 「友達は,楓だけです。」

 「そうか。」

 「やっぱり,日の光って気持ちが良    いですね。」

 「あぁ,,,,。」

 (姫は,そんなに寂しい思いを,,,。)

 「秋高さま?今”寂しいんじゃないか
  とか思ってませんでしたか?」

 「っ,,,,,,!!」

 「あっ,思ってましたね?」

 「それは,,,,,,!!」

 「秋高様,この屋敷に来た日言いました  よね? 
  私,寂しくないですよ,,,と。」

 「そうだったな。すまなかった。」

 秋高は,笑った。
 結も笑った。

 「では,仕事に行くとするかな。」

 そう言って秋高が立ち上がる。

 「お気を付けて。」

 「あぁ,行ってくる。」

 「あの,,,,秋高様,,,,?」

 「んっ?なんだ菜の花の姫?」

 「また,来てくださいますか?」

 「当たり前だ。また来る。」

 (あぁ,私うれしいんだなぁ。)
 
 「行ってらっしゃいませ。秋高様。」

 お辞儀をする。

 この屋敷に来て初めてしたこと。
 前は,父をおくる為に。
 今は,秋高様を,,,,,。

 振り返り歩き出した秋高の背中を見つめ ながら,再び秋高との会話を思い返した。
 
 
 
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