初恋

□恋歌を君へ・・・
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 第7話 想い 

 
 草木も眠る丑三つ時。
 暗い森の中木霊する音があった。
 何かを打つ音がする。
 高く,一定の音はせめたてるように
 森の中に響き渡る。
 暗い,暗い森。 
 やがて,その音は何もなかったように
 こときれた。
 
*******************

 その夜,仕事を終え帰ってきた秋高は
 自分の部屋の机に突っ伏していた。
 
 「一刻後に宴が始まるというのに,,,。」

 父上のせいだ。
 父から話されたことは,菜の花の姫の
 父君のことだった。
 頭を駆け巡っている。

 「姫の父君宛の呪具が見つかっただ      とぉぉぉぉ,,,,。」

 こんな,気持ちで宴なんか出れるかっ!
 それに心なしか体がだるい感じがする。

 (姫に伝えてもいいものなのだろうか。)

 姫の父君が誰かから恨みをかっている
 ことは姫も知っているはずだ。
 しかし,,,,。

 「確実に姫は心を痛めるだろうな。」

 姫にしてやれることは,ほかにないのか っ!

 「くそっ,,,,!!」

 机を握った拳でたたく。

 (あぁ,頭が痛い。)

 「寂しくない。」と言っても
 心のそこでは寂しいと思っているはず  だ。

 (見つかった場所は,,,是人殿の屋敷の床    下。)

 「っとすると,親しい貴族,,,,か?」

 ,,,,,,,,,,?

 「そうとも限らないか。」

 考えるほどわからなくなる。

 「秋高入るぞ。よいか。」

 道隆の声がした。

 「そろそろ,準備は,,,,。」

 「なんですかっ!父上!」

 (はっ,,,,,,!!!!!」

 「おっ,,,整ってないようじゃのぉ。」

 「あっ,すみません。」

 「いやよい。どうした,いきり立っ      て?」

 父上だ。

 「すみません。何でもないです。」

 「そうかぁ?ならいいのだがのぉ。」

 「あの,父上。ひとつ聞きたいこと    が。」
 
 「なんじゃ?珍しい。」

 「今更ながら姫の父君の名は,,,,。」

 「藤咲是人じゃ。言ってなかったか?」

 「是人殿,,,ってあのっ!?」

 (言われてないですよ。父上。)

 朝廷で働いている者なら誰でも知ってい る。あのすごく有名な是人殿っ!!
 役職は低いものの,人望の厚さなら
 是人にかなう者はいないといわれるほど のお人。

 「それに,わしは是人の友達じゃ。」

 「そうだったのですか,,,。」

 「驚かないのか?」

 「はい。やっと話がつながりました。」

 「姫がこの屋敷で暮らすことになったの    は,是人殿とお友達だったからです     ね。」

 「まっ,そういうことじゃ。」

 (何で大事なことを言わないっ!!)

 「はぁ〜。」

 あぁ,頭が余計痛くなった気がする。

 「なんじゃ。」

 「なんでもないです。」

 「そろそろ。東宮様とお客様が来るころ  ですね。」

 「そうじゃな。では,わしは行くから   の。」

 「はい。ありがとうございました。」

 部屋を出て行く父を見送ると,床に寝転 が った。

 (まったく父上にも困ったものだ。)

 さぁそろそろ着替えるとするか。

 天井を見上げまた息をついた。

*******************

 『東宮様,着きました。』

 『着いたか。ご苦労。』

 『いいえ。滅相もございませんっ!』

 
*******************

 実は,俺,東宮様に少し興味がある。
 菜の花の姫には言っていないが,
 東宮様かなりの美青年らしい。
 女房たちが騒いでいた。

 『その容姿は月も劣るそうよ!』

 『それ聞いたわ。姫様にもお話しましょ  うよ。』
 
 『そうしましょう。』
 
 『そうね。』

 『姫様もお年頃ですものねぇ〜。』

 『絶対興味あると思うわっ!!』

 『でも,秋高様とよい感じに,,,,。』

 『,,,,,,,,,,,,,,。』

 『それはないわよ〜。』

 『そうですか?』
 
 『秋高様は,姫様に手出せれません    わっ!!』

 『秋高様ですものね〜。』

 『ですよね〜。』
 
 

 (いくらなんでもひどい。)
 
 女房たちの談笑をきいて,
 男としてのプライドを傷つけられた。
 
 (まっ,盗み聞きしたのは悪かった    が。)
 
 姫に東宮様の情報なんて言う訳がない。
 
 だから,どうしても気になっていたの  だ。
 どんな方なんだ,,,,,?


 「ようこそおいで下しました。東宮    様。」

 お辞儀をした後顔をゆっくりあげる。

 「あぁ。いきなりの申し出ですまん。」

 (なんだこの超美青年は!)

 漆黒の黒髪に,鼻筋の通った顔。
 優しげな面差し。完璧だ。
 細く憂いを含んだ目で見つめられれば
 俺が女でも間違いなく好きになるだろ  う。

 (これは,家の女房たちが騒ぐわけだ。
  さすが,うわさの美青年!期待を裏切  らない。)

 (やばいな,俺,,,,,,。)

 「どうぞこの宴心行くまでお楽しみくだ  さいませ。」

 「あぁ,そうさせてもらうよ。」

 そういって笑った。

 (笑顔も完璧だな。)

 「では,どうぞこちらへ。」

 (あ〜あ,,,,,,,。)

 「きれいなお屋敷だね。」

 「ありがとうございます。」

 (負けない!,,,,,しかし,,,,。)

 (姫だけには絶対見せられないっ!!
  この方!!見せてはだめだ!)

 秋高は密かに決意した。

*******************

 一方で菜の花の姫はというと,,,,。

 「秋高様何してるんだろうね楓?」

 「さぁ,わかりません。」

 戻ってきた楓と話していた。

 「いいなぁ,宴。」

 「女はやすやすと出るものではありませ  ん。」

 「それは,分かっているけど。」

 「よろしいです。」

 「女ってつまらないわね。」

 「いうと思いましたよ。」

 「恋文すらもらったことないし。」

 「もうすぐもらえるんじゃないです    か?」

 「えっ?」

 ニヤニヤした顔をしている。

 「どなたから?」

 「秋高様からです。」

 「なっ,何を言っているの楓!!」

 「姫様とよい感じだと。」

 「そっそんな楓違うわよ!!」

 「何がです?秋高様付きの女房が私に言  ってきましたよ。」

 『秋高様が姫様のことばかりおっしゃる  と。』

 「あっ,秋高様が!?」

 「そうらしいですよ。」

 秋高様が,,,,,!!!私のことを?
 ないない!そんなことっ!!
 なんか,体が熱くなってきたわ。
 もぉ!楓がへんなこというからっ!!!

 「とっとにかく私と秋高様はそっそんな
  関係ではないわ!」

 「姫様お顔が赤いですよ。」

 「かっ楓の,,,,ばかぁ!!!!!」

 「そういえば,,,,こんなことも。」

 「なによ,,,,まだあるの?」

 「今日来ておられる東宮様
  絶世の美青年らしいですよ。」

 「そっ,そうですか。」

 「あら,姫様ご興味は,,,,,。」

 「分からないわよーーーーーーーーーー
  −−−−−−−−−−!!!」

 「まぁ,,,そうですよね。」

 「もぉ,天のお方と親しくなれるわけな  いじゃない。」

 「そんなことないですよ!
  姫様お綺麗ですもの。
  東宮様だって,,,,。」

 「何言ってるの楓ありえないわ。」

 「姫様,,,,。」

 「それに私は綺麗でもなんでもない    わ。」

 「恋人になれるわけないじゃない。
  想像もできないわ。
  天地がひっくり返るかもよ。」

 「そこまでおっしゃらなくても。」

 「いいのよ。別に。」

 「,,,,,,,。」

 「でも,少し見てみたいわね,,,,。
  美青年と名高い噂の東宮様を。」

 「えっ,姫様何を,,,,。」

 楓の顔が少しずつ青ざめていく。

 「楓すこしだけ御簾の外に出てもいいか  しら。」

 「まさか,,,!姫様なりませんっ!!」

 「あら,何いってるの月を見たいだけだ  わ。」

 「それでも,だめなのですが。」

 「あら,いいじゃない。
  たとえ,東宮様が見えてしまったとし  ても,私はただ月を見るだけなのだか  ら。」

 「では,その東宮様が姫様を見てしまっ  たら。」

 「その時は,,,,。」

 「その時は?」

 「お話をすればいいじゃない。」

 「だめです。姫様がこの屋敷にいらっし  ゃるということはひみつなのです    よ。」

 「あっ,そうだった,,,わ,,,。」

 「分かりましたか?」

 「じゃっ,じゃあほんの数刻だけ。」

 「まぁ,それならいいでしょう。」

 「ほっ,本当!?」

 「えぇ,まぁほんの少しなら。」

 「ありがとう。か〜え〜で〜。」

 がばっと抱きつく。

 「ちょっ,姫様苦しいですよ〜。」

 「いいじゃない。うれしくてたまらない  の。」

 「分かりましたからぁ。」

 「うふふ。」

 (秋高様には申し訳ないけど,,,。
 あの時,分かりましたと言いましたけ  ど。少しだけ。許してください。)

 「そろそろ,宴が始まる時間ですね。」

 「そうね。」

 そろりと立ち上がると御簾を跳ね除け
 外へと出た。
 そしてゆっくりと腰を下ろす。

 「ほら見て!楓やっぱり月がきれい。」

 「本当ですね。」

 二人は月を見上げていた。

*******************

 『是人殿,もうこの地には慣れました   か。』

 「あぁ,もうなれたよ。晴彦殿」

 『それは,よかったです。』

 今日の都より東,遠い出雲の地で結の父
 是人は仕事に尽くしていた。
 晴彦殿は,私の同僚だ。
 ここにきて数週間経つがやっぱり自分の 娘のことが不安で仕方がない。
 自分が,この地にいることとその理由
 は,道隆から知らされているはずだが,
 やはり自分で結に告げるべきだった。

 「元気にしているか,,,。」

 『どうしたんですか。是人殿?』

 「あっ,,,いやなんでもない。」

 『そうですか。』

 苦笑いする。

 『是人殿も息抜きしてくださいね。』

 「ありがとう。」
 
 それを聞くと,晴彦は是人に笑顔を向け た。彼実はまだ若い。20代ぐらいだ。
 本人は下級貴族の出だが,努力をしてこ こまで位を上げてきた努力家と聞いてい る。
 
 (すごい子なのだ。)
 
 会釈をすると,部屋を出て行った。

 「ふう,,,,。」

 机の上に筆をほっぽり出してしばらく目 をつむる。
 
 「疲れた。屋敷に帰りたい。」

 しかし,それは無理だ結に危険を及ぼす 訳にはいかない。
 それでなくても,誰かにうらまれている のだ。
 道隆からの知らせはまだないが,,,,
 結に危険が及ぶことぐらいは自分にもわ かる。
 結の屋敷に帰ったときの出迎える顔が見 たい。妻の笑った顔によく似ているの  だ。

 (あの子は愛する妻によく似ている。)

 怒った顔も,,,。
 笑った顔も,,,。
 泣いた顔も,,,。
 全部,,,,,,,,,。

 自分の命よりも守りたいものだ,,,。
 わたしと亡き妻の愛しいかわいい娘。
 わたしの宝物。

 だから,離れた。
 あの屋敷から,大事な娘のそばから。
 結には寂しい思いをさせている。

 目をゆっくり開く。

 「結よすまんな,,,,。」



 

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