初恋

□恋歌を君へ・・・
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 第八話 宴の夜

 
 (くそっ,,,頭が痛い。)

 「どうかされたか?」
 
 東宮が,顔を覗き込む。

 「いえ,何でもないです。」

 周りを見ると若い公達たちが酒を飲み
 蹴鞠を楽しんでいる。
 女房たちはきっと御簾の中で東宮様の
 姿に見とれていることだろう。
 
 「秋高ぁ!なぁにやってるんら〜。」

 寛隆が話しかけてきた。
 こいつは,俺の親友で幼馴染だ。
 
 「おい!東宮様の御前だぞ。」

 「とうぐうさまぁ〜?」

 「あっかまわないんだが。」

 「いいえ!そうはいきません。」

 「とうぐう様もぉ一緒に飲みましょぉよ  ぉ〜。」

 「えっ。」

 「まったく,寛隆は,,,。」

 寛隆の襟首を掴む。

 「おっ,なんだよぉ〜。」

 「おまえ,こっちこい。」

 「は〜な〜せ〜よ〜。」

 「だめだ。」

 「宴だぁろぉ,,,,。」
 
 「そんなかたいこと,,,,いう,,な,,。」

 「くぅ,,,,,,,,,,。」

 寛隆は,いびきをたてはじめた。

 「寝てしまったみたいだが,秋高殿。」

 「そうみたいですね。」

 「,,,,,,,,,,,,,。」

 「,,,,,,,,,,,,,,,ぷっ!」

 「あはははははっ!」
 
 「どうしたんですかっ東宮様。」

 「いやおかしくて。こんなの初めてだか  ら。」

 周りの公達も女房もこちらを見ている。

 「ほんと楽しい宴っ!だね。」

 「それは,よかったです。」

 「あぁ。」

 「こいつ運んできますね。」

 「あぁわかった。」

 『あの,東宮様蹴鞠しませんか?』

 「私か?」

 『はい。』

 「いいの?」

 『もちろんですよ。」

 周りの公達も集まってくる。

 『やりましょう。』

 「,,,,,,,,,,ありがとう。」

 
 親友を運び終わった秋高はその足で
 菜の花の姫の部屋に向かった。
 
 (まったく,酒に弱いのに,,,。)

 姫は何をしているのかな。

 姫の部屋に行こうとしたとき,姫と楓
 の姿が見えて思わず立ち止まった。

 (出ないでほしいといったのにな。)

 まぁ,分かっていたことだ。
 菜の花の姫にはじめて逢ったあの時から
 ずいぶん姫らしくないなと思っていたの だ。
 
 しかし,姫はきれいだ。
 月を見上げているのだろうか。
 月に照らされた白い肌はほのかに輝いて いる。
 いや,,,月に照らせれていなくてもきれい なのだが。
 
 
 「ねぇ楓,父様元気かしら,,,。」

 (是人殿のこと?)
 
 「げんきですよ。きっと。」

 「うん,,,,,。」

 「大丈夫です。殿様は。」

 「文を出すことはできるのかしら?」

 「できるかもしれませんね。」

 「明日,道隆様に聞こうっと。」

 (やっぱり,心配なんだな,,,。)

 「秋高さま楽しんでいらっしゃるかし   ら。」

 「そうですね。どうでしょうか?」

 「秋高さまはお酒強いかしら?」
 
 「弱いかもしれませんよ。」

 「そうかもね。」

 (失礼な。俺は強いほうだぞ。)

 「ふふふっ,。」

 (むぅ,,,,,,,,。)
 
 眉間にしわを寄せて,一人でムッツリ
 していていた。あわててしわを伸ばす。

 「でも,もし酔われてしまったら,
  わたしが,介抱してしまうわね。」

 「姫様,殿様が酔われた時いつも介抱し  ていましたものね。」

 (菜の花の姫の介抱,,,。)

 
 
 その後,宴の席に戻った。
 
 「秋高殿どうされたのだ?
  顔色が悪いが,,,。」

 「俺が酒に弱ければな,,,。」

 「どうしたのだ?」

 「いえっ!何でもないですっ!!」
 
 「そっ,,,そうか,,,。」

 秋高の剣幕にさすがに驚いたらしく,
 東宮は黙った。

 『おい,東宮様が気を悪くなさるだ    ろ。』

 「あっ,すみません。東宮様。」

 「いや,別にいいのだ。」

 『まったく,秋高は,,,,。』

 周りの友達が口々に言う。
 
 (はぁ,,,,,。)

 

 『東宮様笛でも吹きませんか?』

 「ふっ,笛か!?
  私は笛は得意ではないのだが。」

 『まさか,そのようなことをお言いにな  って。謙遜しなくても。』
 
 「いやっ,本当なんだが。」

 『吹いてくださいよ。
  おい,秋高も吹けよ〜。』

 「えっ!」

 「っ,,,あっ秋高殿庭を見せてもらっても  いいかなっ!」

 「はい,いいですよ。」

 「すまんな。」

 『おい,逃げんなよ〜!!』

 「あぁ,もお!逃げね〜よ。」

 (東宮様,本当に笛出来ないのか,,,。)

 その後俺もついていこうとしたが,
 寛隆らが俺を止めた。
 東宮様が一人になりたいといわれたので
 ついていくのをやめた。

 その折に東宮様がこんなことをお言いに なった。

 「秋高殿。私を名で呼んでくれぬか?」

 「はい?」

 「その,”東宮様”は寂しいのだ。」

 「かまわないのですか?」

 「あぁ,名の方がいい。」

 「はぁ,分かりました。」

 「私のことは,篤時と呼んでくれ。」

 そういって,にこりと笑った。
 
 (変わってるな,菜の花の姫も東宮も。)
 
 篤時のうしろ姿を見送って秋高は
 宴の席に戻った。 

 
*******************

 「ねぇ,楓,笛の音聞こえない?」
 
 「あっ,聞こえますね。」

 「誰が吹いていらっしゃるのかしら。」

 「秋高様かもしれませんよ。」

 まるで,川の流れのようななめらかな
 音が,月から降ってくるようだ。

 「きれいな音ね。」

 「はい,そうですね。」

 「少しでも宴見れたらいいのに。」

 「姫様,我慢してください。」

 「,,,,,,,うん。分かってる。」

 無理を言って,御簾から出ているのだ。
 これ以上わがままは,さすがに言えな  い。

 「,,,,,,,,?」

 「どうしたんですか,姫様。」

 「しっ,誰かが来る。」

 「どなたが?」

 「わからない。足音するでしょう。」

 「私には,聞こえませんが。」

 「楓,あたし耳はいいのよ。」

 「はぁ,では御簾の中に,,,。」

 「そうね。中で様子を。」

 足音が近づいてくる。間違いない。
 この屋敷の女房たちは,宴でいそがしく
 歩き回っているだろう。
 ということは,,,宴に来ている公達様?
 
 「怪しいわね。」

 「はい。」

 息を潜めて様子を伺っていると,
 その足音が急に止まった。

 『ここどこだ?』

 若い男の声がした。

 「ねぇ,楓どうしたのかしら。」

 「どうやら,迷われたみたいですね。」

 「そうよね。」

 『しまった,ここは対の屋では,,,!』

 「あら,気づいたみたいだわよ。」

 「はい。」

 慌ててどこかいこうとした気配が動いた と思った瞬間!

 『おわっ!!!!』

 (ドテッ!,,,,,,,。)



 「,,,,,,,,,,んっこけた?」

 「そう,,,,,,みたいですね,,,。」

 笑いがこみ上げそうになる。

 「姫様,笑っちゃいけませんよ。」

 「わっ,分かってるわよ!ふふふっ!」

 「しーーーー姫様お静かにっ!」

 『いってぇ,,,。』

 「ふふふふふ。」

 こんなところに迷い込んで,いったい誰 なのだろう。

 『あっ,,,,,。』

 「何か見つけたのかしら楓?」

 「さぁ,,,,,。」

 するとため息をつくような小さい声で
 こう聞こえた。

 『今晩は,月が美しゅうな。』

 「ねぇ,楓?。」

 「何ですか姫様?」

 「きっと,この声の持ち主は風流がしっ  かり分かっている方ね。」

 「きっとそうですね。」

 『金色の月を見ると吹きたくなるあ。』

 「何でしょうね。姫様。」

 「さぁ。」

 すると,低く低音のしかし透き通った
 笛の音が聞こえてきた。

 「笛?」

 「きれいな音ですね姫様。」

 「うん。さっき宴の席から聞こえてきた
  笛の音とはまた違った音ね。」

 「ですがなぜこのようなところで笛を吹  くのでしょうか。」

 「そうよね。宴の席で吹けばいいのに   ね。」

 こうなるとますます気になってきた。
 どうにかして聞き出す方法はないか。
部屋の中をゆっくりと見回す。
 
 「,,,,,,,,!!」

 「ねえ,楓?ようは私が誰なのか
  分からなければいいのよね?」

 「は,,,,,,?」

 「ねぇ,楓私いいこと思いついちゃっ     た。」

 「ひ,,,姫様??」

*******************
 
  
 『おい,秋高〜すまんまた俺寝てしまっ    たか?』

 「あぁ,おまえは酔いつぶれていた。」

 少し怒気を含めた声で言ってみる。

 「うっ,すまんすまん。」

 そう言うと,親友は俺の隣に座る。

 「酔い過ぎないように気を付けろよ。」

 「あぁ気をつける。すなかったな。」

 「まったく。」

 親友は,こちらを見て苦笑いした。

 「そういえば,東宮様はどちらへ?」

 「あぁ,庭を見に行かれた。
  そういえば,お帰りが遅いな。」

 「実はな,先ほど対の屋の方に歩いてい  く人影を見たぞ。」

 「不審者ではあるまいか。
  警備のものに知らせてはどうだ?」

 「人影,,,?その前に対の屋と言わなかっ  たか!?」

 「あっ?あぁ言ったが,,,どうかしたか」  
 (そこには,姫がいる!)

 「すまん。少し見てくる!!」

 くつを急いで履き対の屋へ走る。

 「おいっ!警備の者にはっっ!!」

 「いいっ!俺が行ってくる!」

 「はぁ!?おい!!秋高!!」

まさか、姫っ!

 
 「これでよし。」

 「姫様あの、、、。」

 「あら、楓さまになっているじゃない。」

 「姫様困りますよ」

 「ふふん。」

 「はぁ、、、。」

 「あたしが姫着物を着ているからいけないの  よ。」

 「ですが姫様これからどうしようと?」

 「それがねぇ〜」

 
 『そこにだれかいるのか?』

 まっまずいわっ!!

 「ほらほら姫様どうなさるんですかっ!」

 (あ-----------!)

 「こちらにおられたのですか。」

 (んっ?秋高様のお声?)

 『秋高殿、すまぬ迷ってしまい。』

 「いいのです。」

 「申し訳ない。」

 「それよりも、皆が待っていますので。」

 「そうか、では行こう。詫びに笛でも吹こ   う。」

 「それは楽しみです。ではこちらに。」

 (なんとか、危機はまぬがれたわ。)

 足音がどんどん離れていくのを耳にしながら
 結は何となく安心していた。
 それと同時に、やはり”姫”という立場から
 抜け出しそうにない自分に落ち込みつつあっ た。


*********************

 

 




 
 


 
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