初恋

□恋歌を君へ・・・
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第一話  庭掃除好きの姫

ーあなたの笑顔が好き。ー-----

ーたった,それだけで,”恋をした”ー---

ーたとえあなたが,誰を想っていてもーー

ーあたしには,運命の恋。ー--------
  

「ふ〜ん,こういう本が今の都の流行なの ね。」

「でも,私には関係のないことか。」

 ーそう,関係のないことだ。−−−−

 ときは,平安時代。藤原道長の頃。
 京の都は,貴族たちの贅沢な暮らしによ って華やいでいた。
 そんな都の中心から離れた,まさに都の
 ”端”ともいうべきところに,私の屋敷 は,ある。
 今は,屋敷の庭のお掃除中です。

 「ゆいさま,結様ぁぁぁ!!!」

  向こうから,一人の女房がやって来   た。
 
 「どうしたの,楓そんなに大きな音を立  てて?」
 
 あっ,申し送れました。私の名は,結。
 藤咲結。
 この,叫んでいるのは,女房の楓だ。
 ちなみに,幼馴染。


「”どうしたの”では,ありません!
  あなた様は,屋敷の姫では,ありませ  んかっ!」

 「そうです。」

 「では,こんな所でお掃除など,してて  は,なりません。と,毎日言っている  ではありませんか。」

 「なぜ?いいじゃない。どうせ,屋敷の  中で静か〜にしてても,つまらないし
  どうせ,誰もこないでしょう?」

 「うっ,そ,そうだとしてもです。」

 「それに,姫だとしても私は,こうやっ  て庭のお掃除もしたいし,好きだし,
  それに,日の光も浴びたい!」

 「しかし,一応姫というお立場なのです  から,せめてお顔ぐらいは,お隠しく  ださいませ,,,お願いですから。」

  そう言うと,諦めきったような顔で
  こちらを,じっと見つめた。

 「,,,,,,,,,,,,,,,,分かったわ。」

 ため息をひとつついて,扇を取り出し顔 を,覆った。
 
 「これでどう?」
 
 そう,言って声をかけると満足したよう に微笑んで,また屋敷の中に入っていっ た。

 (まったく,楓もいい加減諦めたらよいの  に)

 そう,思いながら空を見上げた。
 雲がひとつ浮かんでいる。

 「私も,母様のように,,,」

 母は,生まれは,地主の娘だった。
 名は、綾子。
 母は,中流貴族であった父と運命的な出会い を果たし,恋に落ちた。
 父は,親の猛反対を押し切り母と結婚し た。そこに,生まれたのが私というわけ だ。
 しかし,母は,亡くなった。
 5年前に・・・。

 「そろそろ,中に入ろうかしら。」

 きっと,母のような人生は私にはおくれ ないのだろう。恋歌など,誰にも書かな いまま誰かと結婚するのだろう。
 それだけが,自分に与えられた”姫”
 ということを,自覚させていた。

 夕餉を食べてから,部屋に戻り横になっ ていた。
 そして,いつの間にか夢を見ていた。
 それは,屋敷のすぐそばの菜の花畑で
 母と遊んだ幼い日の夢だった。
 
 ふと目が覚めたのは,日が傾きはじめる
 頃だった。

 「あら?もうこんな時間・・・」

 部屋には,楓が一人座り縫い物をしてい た。

 「あら,姫様お目覚めですか?」

 そう言って,にっこり笑った。
 
 「まだ,父様は帰ってきてないの?」

 「はい,まだ。先ほど”遅くなる”と
  連絡がありました。」

 私の父は,一応出仕していて,位は低い が支部で,働いている。
 しかし,人望が厚いと評判らしい。

 「そうなの。」

 「ですが,めずらしいですね。」

 「えっ,何が?」

 「お殿様のことを,お口にだされるな   んて。」

 「え,そうだっけ?」

 「そうですよ。だって普段は,”つまら  ない〜!”だとか,”町にいってもい  い?”だとかお言いになってるでは,  ありませんか」

 「え?そうかな〜」

 「はい。」

 楓は,自信を持っているかのように大  きくうなずいた。

 「う〜,えっとね,実は母様の夢を見た  の。」

 「北の方様の?」

 「うん。」

 「そうだったのですか。」

 「幼い頃の夢を,見ただけ。楓もう眠く  なっちゃった。」

 「えっ!!!もうですか!?」

 「うん。寝る支度をしましょ。」

 「はい,,,ではなくて,わたくしがし  ます!!!」

 「あら,私もしたいの」

 「いえいえ,わたくしが!!!」

 このやりとりは,半時続いて結局二人で することになったのだった。 
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