TIGER & BUNNY

□おじさんの髭の理由。
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「ねぇ、虎徹さん。」



「ん?何だ?」



名前が自分で淹れたコーヒーを啜りながら言う。

時刻は、夕方。
お客のいない店内に、夕日が射しこんでいる。

先日、生けたという紫色のリューココリネと淡いピンク色をしたアルメリアのブーケが光を受けて、キラキラと輝き目に眩しい。花器の前では、眩しそうに目を細めコタローが座っている。

そんなに眩しいならば、もう少し移動すればいいのに…くすり、と笑みを零す。

もう一度、カップに残ったコーヒーを啜る。キャラメルの甘さと、苦みが舌の上に残って心地よい。



「なんで、髭のばしてるんですか?」



「…髭?これ、似合わないか?」



虎徹は、自分の顎に手を伸ばし、髭を触る。
チクチクと、硬い感触が指に刺さる。



「いいえ、そうじゃなくて。
 髭のない虎徹さんも、見てみたいなって。」



ふふふーっと笑いながら、いたずらっこのような目で名前が覗き込んでくる。
……ちくしょう、可愛い。

「名前も分かると思うけどよー…
 日系だと、すっごく幼く見られるだろ?」



「あー…分かります。
 うちにも、よく来るお客様、ちょっと問題のあるお客様なんですが
 すぐに、店長出せって言ってきて。」



店長は私ですって言っても、全然信じてもらえなくて。それで、さらに怒られちゃうんですよね。困ったように、可愛い眉間に皺を寄せている。

そうか、こういう仕事をしている以上扱いにくい客って言うのも、いるんだよな…くそー、名前に何て事しやがるんだか。



「それで?
 もしかして、幼く見られない様に伸ばしているんですか?」



「そう!
 髭がないと、幼く見えてな…。」



「そうなんだー。
 そう聞くと、さらに髭のない虎徹さんが見たくなっちゃうなー。」



「…だーめっ。」



「えぇー…。」



残念そうに、口を尖らせる。
ちらっと横目で、その表情を盗み見る。
…やっぱり、可愛い。

あー、くそ、夢で言われた事が気になって仕方ない。名前の事を、無駄に意識してしまう。そろそろ、本気でどうにかする必要があるのかもしれない。

早くなっている心音と、少し熱を持った頬を誤魔化すため目線を花へと移し、口内を湿らすためにコップに口をつける。

アイスコーヒーの氷が、カランっと音を立てて溶けた。ひぐらしの鳴く、夏の夕方。






「ねぇねぇ、本当にダメ?」


「だーめーだ!これだけは、無理。」





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