TIGER & BUNNY

□The deep scar is concealed in the bottom of the mind.
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「じゃあ、また明日なー。
 明日は涼しそうだから、ホットでよろしく!」



「はい、承知しました。
 明日も待ってますね、虎徹さん。」



「おう。じゃあなー!」



カランカランッ。
軽快な音を立てて、扉が閉まる。

虎徹さんも帰り、ここもそろそろ閉店の準備でも
しようと思い机や棚を拭きに回る。
葉音ちゃんも、虎徹さんが帰ったのが聞こえたのか出てきた。

余談だが、葉音ちゃんはヒーローの誰かが
来ている時は、忙しい時以外は
スタッフルーム、と呼んでいる部屋に行ってくれる。

きっと、NEXTではない葉音ちゃんなりの気遣いなのだろう。
葉音ちゃんも、必然的にヒーロー達の事を知っているが
普段、私が呼ぶ名前と素顔しかしらない。

彼らがゆっくりと休めるように、プライベートに
踏み込まない様に、と配慮をしてくれる。



「名前さん、コタローが…。」



「え?どうかしたの?」



「いつにも増して、不機嫌です。」



「あらー……。」



虎徹さんが来ている間、てっきり葉音ちゃんについて
スタッフルームで昼寝でもしにいっているのかと思ったら。
カウンターからは覗きこまないと見えない死角で
こちらの会話を聞いていたらしい。

大きなしっぽを、さらに大きく膨らませ
ばたん、ばたんと床をならしている。
そして、その顔はそっぽを向いている。


そうか。
普段、虎徹さんと話す時はだいたい座っていて
膝の上にコタローが乗ってくるんだけど。

今日は、ケーキを作りながらお話していたから
コタローが来れなかったのか…。

仕方ない、今日は少しだけサーモンでも
焼いてほぐしてあげるか…。
ちょうど、美味しそうなサーモンが入ってきたばかりだ。
やっぱり、旬のものはとにかく美味しそう。



「今日、タイガーさんといつもに増して
 楽しそうにお話しされてましたもんね。」



「…へ!?葉音ちゃんも聞いてたの!?」



「そんな事、するわけないじゃないですか…。
 ただ、2人の笑い声がいつもよりもたくさん聞こえたので。」



「ああ…なるほど。」



コタローの機嫌を直すのが先決だと思い
冷蔵庫からサーモンを取り出し、少しだけ切り分ける。
それを温めたフライパンにグレープシードオイルを
本当に少しだけたらし、サーモンを焼く。

代わりに、葉音ちゃんが代わりに
拭き掃除を始めてくれた。



「ねぇ、名前さん。
 昔から、聞きたかったんですけど…。」



「ん?なになに?」



「名前さん、虎徹さんの事…本当に好きじゃないんですか?」



「え?なになに、急に。」



サーモンに、完全に火が通ったのを確認すると
キッチンペーパーの上に取り、包む。
冷ましながら、油分を取っていく。



「名前さん見てると…どこか無理しているような。
 好きにならないように、しているような。
 それは、タイガーさんが亡くなった奥様を
 未だに大事にしていること、だけじゃないです…よね?」



少し、遠慮がちに目を伏せて葉音ちゃんが答える。
そして、まさか言い当てられるとは思わなくて
驚愕してしまう。

虎徹さんといるときは、葉音ちゃんは部屋にいないというのに。
この子も、実はNEXTで心が読める力でも
持っているんじゃないか、と思う。



「なんで、そう思ったの?」



「ええと、本当に名前さんを見ていて、カンなんですけど。
 特に、最近…そんな感じがして。」



「…葉音ちゃんには敵わないなぁ。そうだね。そうかもしれない。」



今度は、こちらが目を伏せる番。
ここ最近あった事や、考えた事をいろいろと思い出してみる。

でも、どうしても最後は虎徹さんの大好きな
笑顔を思い出してしまって、心が苦しくなる。



「あの人…のせいですか?」



「え?」



「最近、此処の目の前を通られましたよね。
 その時、名前さんがとても驚いた表情をして
 すぐにスタッフルームに入って行ったので。
 どうしたのかと思ったら。」



「…本当に、葉音ちゃんはすごいなぁ。
 実は、NEXTなんじゃないの?」



冷めたサーモンを、箸で細かく解しながら
目だけ動かして、葉音ちゃんをチラリと見る。

驚くほど、辛そうな表情をしていて
こちらがビックリしてしまった。



「ど、どうしたの!?」



「いえ…。勝手に、詮索するような真似してしまってごめんなさい。
 でも、名前さんには幸せになって欲しくて。
 早く乗り越えて、本当に心から笑ってほしいんですっ!」



ぽろり、と葉音ちゃんの目から涙が零れた。

正直、こんなにも自分の事を考えている子がいるとは
思わなくて嬉しくなってしまう。
それと同時に、こんな私の問題で辛そうな顔をさせている
葉音ちゃんに、申し訳なくて仕方がない。

箸を置くと、自然と葉音ちゃんを抱き締めていた。
私よりも背が高い葉音ちゃんの頭には手が届かなかったから
ぽんぽんっと背中をあやす様に叩く。



「葉音ちゃん、ありがとう。
 確かに、葉音ちゃんの言うとおり、まだ彼の事を引きずっているところも
 あると思うんだ…。この間も、久しぶりに姿を見かけて。
 あまりにビックリして、逃げちゃった。」



「…名前さん。」



「でもね、そういう事も含めてちゃんと考えなきゃなって思ったの。
 彼の事も、虎徹さんの事も。
 きっと、彼はそのうち店に来ると思うの。
 だから、その時どうしたいのか自分で考えなきゃね。」



「…無理しちゃ、抱え込んじゃ嫌ですよ。」



「うん、ありがとう。
 何かあったら、それに辛かったら葉音ちゃんに言う。」



だから、大丈夫。
心配してくれるだけで嬉しい。
そう伝えたら、ぱっと顔を上げたと思うと。
泣きながら笑顔を見せてくれた。

ニャー・・・・ン

コタローの催促する声が響く。
きっと、早くサーモンをよこせ、と言っているんだろう。
二人で顔を見合わせると、ぷっと噴き出して
大笑いしてから、それぞれの仕事に戻った。



大丈夫、ちゃんと決めるから。
そうしたら自分の気持ちに素直になるよ。




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