TIGER & BUNNY
□溺れる人魚。
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「ちょ、ちょっと本気!?」
焦ったような声を発し、少し赤くなった目じりで俺を睨む。にんまり、と口元に笑みを浮かべれば、さっきよりも、うるっとした瞳が絶望の色を浮かべている。
……正直、そこまで嫌がられるとは思わなかった。おじさん、ショック。
落ち込んだ心を隠すように、さっさとシャツのボタンに手を掛ける。
途端に、びくり、と身体が震える。
今更、そんな反応する事もないのに。
可笑しくって、さらに笑みを深めれば
「変態っ!」と、肩を押される。
そんな行動ですら、可笑しくて。
くるっと身体を回転させると、後ろから抱え込みながらボタンを外していってやる。
ふわっと、髪からシャンプーの香りが漂った。
甘い、花のような香り。
抱きしめた時に、いつも香る名前の匂い。
一度だけ、名前の家に泊った時に
同じシャンプーを使った事がある。
俺には甘過ぎて、似合わないと思ったけれども。それ以上に疑問だったのは。
同じモノを使ったとしても、名前と同じ匂いにはならないという事だ。きっと、この匂いはシャンプーと名前の匂いが混ざっているのだろう。
「ちょっと、早く虎徹も脱いでよ!
私、先に入ってるからね!」
考え事をしていたら、いつの間にか脱がせ終わってたのだろう。タオルを身体に巻きつけて、さっさと風呂場に入っていく。
だから、今更そんなに恥ずかしがることない…っていうのに。
さっさと自分も服を脱ぎ捨て、風呂場に入る。名前が、石鹸やシャンプー等をおいてある棚を凝視している。
「どした?」
「え、あ、ちょっと!タオルくらい巻いてきてよ!」
こちらに、ちらりと目線をやったと思うと真っ赤になり、顔ごと背けられた。
先ほどから、反応が面白くって。
そのまま、名前に近づいていき顔を覗き込む。
「今更、なんでそんなに恥ずかしがるんだよ。
昨日も散々見ただろ?」
「…明るいところは、恥ずかしいの!
それに、そんな下品な言い方しないの!」
「はいはーい、分かりましたよ。
それより、どうしたんだ?」
「あー、シャンプーこれしかない?」
いつも俺が使っているリンスインシャンプーを指差す。その顔には、どう見ても「使いたくない」と書いてある。
何だか、むっとして。
「これしかないから、名前ちゃんもこれね。」
「えぇー!
いーやーだー!おじさん臭くなるー!」
「な、なんだとっ!」
おじさん臭くなんかねぇよ!
今朝は、俺と同じシャンプーやら石鹸やらを使って。俺と同じ香りに、溺れてしまえばいいのに。
溺れる人魚。
(なーんで、名前だと同じものでも良い匂いするのかな。)
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