ランチの時間をだいぶ過ぎた、暑い日の午後。

この時間帯は、本当に人がやってこないため、普段流している曲を止め、自分の好きな曲を流し、仕入れのチェックや、売上の管理を行う。

メールボックスを開いてみると、贔屓にしている業者から新しい食器を仕入れた、というメールが来ていたので、さっそくインターネットを開いてチェックする。


白い、厚めの重みのあるカップがほしいなー…。カプチーノとか飲むのに使える、口当たりの良いカップ…。

あ、グッチーニのカップ可愛い…。
カフェモカとか、甘い可愛い感じのコーヒーに良いかも。


こういった、何かを探し選んでいる時は、ついつい没頭しすぎてしまい、周りの音が聞こえなくなる習性がある。しかし不思議と、隣のiPodから流れるお気に入りの曲は耳に入るから不思議だ。

意識せず、聞き慣れたメロディと言葉を歌い出してしまう。



「その笑顔でその仕草で 僕が壊れてしまうからー♪」



「ご機嫌ですね。」



「ひぃぃぃっ!」



集中していた所に、声をかけられ情けない声が上がる。来客を告げる、ベルの音にすら気がつかないなんて…。

それよりも、今まで結構な声量で歌っていたのではないか。いつから、聞いていたんだ…と。
今更後悔しても遅い疑問が、ぐるぐると頭の中を駆け巡る。



「誰のこと想って、歌ってるんですか?」



後ろを振り向くと、呆れたような表情を浮かべた綺麗な顔をした男が立っていた。珍しく、今日は一人でやってきたようだ。



「びっくりした…いらっしゃいませ。」



隣で音を発していたiPodを止め、店内のスピーカーに接続されているPCを操作しiTunesを開き直す。

歌っているところを見られた動揺からか、ボサノバ調のカバー曲のプレイリストが見つからない。



「へぇ、パソコンから音楽かけていたんですね。その割には、音がいいような…。」



「えぇ…その辺りには結構気にかけているので。」



カウンターの奥に設置してあるPCを覗きこまれる。無駄に画面をスクロールさせ、カーソルを行き来させ、やっとの思いでいつもの曲をかける。



「なに、動揺してるですか。」



「いや、歌っているところを見られるなんて…なんか恥ずかしいなーと思って。」



あははは…と乾いた笑いをこぼすと、いつもの席に座った、バーナビーは軽くため息をつく。



「ああ、そんな事…。それにしても、本当に歌が上手いんですね。」



「え?」



思ってもみなかった言葉が返ってきたため、ビックリした。エスプレッソを抽出していた手を止め、バーナビーの顔をまじまじと見つめる。

急に見つめられ、怪訝そうな顔をしていたが、目の前で歌った事なんてあったっけ?と聞けば
納得したような顔をした。



「おじさんに聞いたんですよ。歌も上手くて、昔は歌ってたりもしたって。」



「まぁ…昔の話だけどね。
 そういえば、今日は虎徹さんは?」



そんなことまで、話していたのか。
と、頬が染まるのを隠すために話題を変える。
本当に、あの虎徹という人間は何でもこのバーナビーに話すのだから、困る。

否、困るというか、くすぐったいというか。
たまに、よく知っているな…と思う事まで話しているので観察されているようで、照れくさいというか。



「また、上で怒られていますよ。
 だから、僕が先に来たんです。」



低脂肪の牛乳を、エスプレッソの中に入れカフェラテを作る。真っ黒いストローをさし、バーナビーの前に置く。ありがとうございます、と一言礼を良い口を付ける。



「ああ…。また賠償金が増えちゃって可哀想に。」



本当に、周りが見えなくなるタイプだからかとにかく色々なものを破壊することが多い。いつだったか、この店のドアも外されてしまい直すのが大変だったこともあった。

虎徹さんが来たら、美味しい物でも作ってあげよう、と思う。



「あ、ケーキとか…食べる?っていっても、チーズケーキしか今ないんだけど。」



「そうですね…いただきます。」



冷蔵庫から、昨日作ったチーズケーキを取りだす。作りたても美味しいが、一日冷蔵庫で寝かせておいた方が個人的には好きだったりする。なんというか、味が馴染んでまろやかになっている。

適当な大きさに切り、真っ白い皿に盛り付けサクランボで作ったソースで、飾り付ける。シンプルに盛り付けた皿を、彼の目の前に置く。



「ありがとうございます。」



この、バーナビーという男は、未だに何を考えているのか分からなくて困る。別に、好いていないだとか、何か企んでるとか、そういう訳でないのだが…。

前よりは懐いてくれたような気がするが未だに心を開ききってくれてないというか…信用されきってない、というか。

虎徹さんのように、気軽にバニーちゃんと呼べるような仲ではない事は確かだ。

ただ、一人で来る事は滅多にないとしても此処にやってくるようになったのだから。この場所が居心地が良いと、少しずつでも認識しているのであろう。



「…ま、いっか。」



まだまだ、虎徹さんに頼まれたようにはならないけど。ゆっくり分かっていけばいいかな。

まずは、バニーちゃんって呼んでも怒られないようにならないとね。



「…何がいいんですか?」



「え?ああ、なんでもないよ。
 何作ろうかなーって思って。」

ウサギの懐かせ方。





Thank you for your Clap!



.






[TOPへ]
[カスタマイズ]

©フォレストページ