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「泣くな」
「ダメだよ、オオドリ君、半分はあたしのものなんだから、やだやだ」
くしゃくしゃに顔を歪める妻の頬ををなでる。
「戦士が戦場(いくさば))に死ぬるは本望だ。
まして騎士。大切な『姫』を守るためなら なおだろう?」
大粒の涙が ぽろぽろと 頬に、目に、落ちる。
霞む。
「泣くな、リュー。」
もっと もっと 見ていたいのだから。
「笑っていてくれ…」
自分勝手だ、と舅(しゅうと)に叱られそうだが。
「…やだぁ、オオドリ君!!」
「……」
意識を失った大きな体を抱きすくめる。引き摺るように、一歩、二歩。
せめて、まだ魔法の息吹を許すザニアの境界に入れれば。
常ではない 力が、かの夫を救おうと 一縷の望みをつなごうとする。
だが その動きを見逃すほど甘い 敵兵達ではなかった。

――――オオドリを育んだ国なのだ。


弓矢が、その小さな肩に刺さる。
しびれる腕に、昔々不意に襲撃された夜を思い出す。
単独では彼よりはずっとずっと 弱いのに。
あの時よりも ずっとずっと弱くなってしまった自分を、初めて惜しむ。

抱えたオオドリの体から気配が完全に消える。
さっきまで いた のに。


『禁呪というものがある』

 かつて 美貌の魔術師とその連れを見て、溜息のように従兄が洩らした言葉。
術者の命を、体を贄として 何者かを呼び出すよう魔術。
禁じられた。危険な。それでも 古くから 伝承されてしまう。

敗者の女は 勝者の隷属、のように根強く。

手に入れてしまった。治癒の魔術は身にならなかったのに。
 

「せっかく助けてくれたのにごめんね、オオドリ君。
ダメだよ。
半分がなくちゃ あーちゃん、もう 生きられないよ」
亡骸を抱き、瞳に涙をのこしても。微笑む。ひまわりのように。
「逝こう。《業火の王》」



そして、一帯は 焦土と化した。

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2015.1.13.

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