企画用

□一周年記念 月の姫
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後の世にまで語り継がれる事になる長岡京の建設より、4年の歳月が過ぎ去りし頃。

葉月のある晩に。

1人の少女が陰陽寮へと配属された。
流れる黒髪とそれを引き立てさせるような白い肌。その瞳には、どれだけ近寄っても受け入れてくれるような妙な包容力がある。

月はそわそわした素振りで、陰陽寮の建物の中のあちらこちらに目を向けている。木で出来た床と壁は見ていても気が紛れる事はない。壁に刻まれた紋章や張られた札を見て、何の術式か、どんな結界が張ってあるのか、考えるのがせいぜい。

貴族や皇族と違って、陰陽師は学者という印象が強い。そのせいかはわからないが、建物の構造は地味だった。今、月はその地味な建物の中の部屋の一角で正座していた。

「どした。緊張したか?」

隣で同じく正座していた海馬が気遣わしげに視線を月に送りながらそう聞いた。

「・・ん。・・・だって。おんみょうりょーの偉い人が来るんでしょ?」

控えめのソプラノな声を聞いて、海馬は苦笑する。

「といっても、『裏』における偉い連中じゃけどな。」

世界は表裏一体。陰と陽で成り立つという考えが元になっているからなのかは定かではないが、陰陽寮には、『表』と『裏』の二つが存在する。

『表』は、卜部を主な仕事とする。土地の吉凶占いから、国の存亡まで様々な事を占い、皇家へ進言する。


『裏』は、世にはびこる人々の負の気から創り出された物の怪を退治することを役目とする。


「ま、実力が無ければ、入れない。が、逆を言えば、実力さえあれば入れる・・・・はずや。きっと。」


海馬は最初は勢いよく、最後は歯切れが悪い調子でそう言った。その反応に小首を傾げる月であったが、深くは追及せずに再び黙った。
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