企画用

□一周年記念 方術士見習いと和のこころ
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 信濃国には東西南北に都(と)と呼ばれる広大ーこの国の基準で、だがーな地域がある。

4つの地域のどれもが例外なく、山と森と川の3つが必ず存在する。豊富な自然とそれに伴う水資源がある。

東(あずま)の都、とある少年が住む地域にも当然ながら、森林がある。というよりも、少年の住む場所が森の中にある。



「エミリオォォッォオオオオー!!!」


昼間の森の中で女性の声が響き渡った。あまりの凄まじさに森にいた鳥が慌てて飛び立つか、もしくはその声にやられて、地面に墜落する鳥もいる。


「な・・・なんだよ!!」


「いや、ちょっと名前呼んでみたかっただけ。あ、洗濯物やっといてねー。」



「叫ぶ必要ねー!!」


少年、エミリオ・シオン・ロシュフォールは母親に向かって叫んだ。長い黒髪で紫色の瞳。対して目の前の女性は茶髪、すんだエメラルドの瞳。

似ているのは髪の雰囲気だけだ。



「つか。俺は方術の修行してんだから、洗濯物なんてやんねーよ。」


「うわぁ、これがうわさの反抗期。母さん悲しいわ。」


「・・む、エミリオ。母さん悲しんでいるではないか。」


「て・・・父さん!いつの間に!?」


エミリオは隣に音もなく現れた父親。シオン・ゲンサイに驚き目を見開く。白髪で、顔のあちらこちらに皺を刻んでいるこの父親は、かつては方術士として、アーストリア軍と戦った男だ。


「ふむ、お前にこんなものが着ているぞ。破り捨てていいな。」


ゲンサイの手には一枚の封筒が。送り先はアーストリア軍ー・・・その文字にエミリオは思わず顔をしかめたが、ゲンサイがその手紙を破り捨てようとするのは、どうにか阻止した。


「疑問系すらつけずに言うなよ!!せめて、俺が読んでからにしようぜ!!」


「ふむ・・・。」


ゲンサイは不満そうに手紙を見て、それから渋々エミリオに手渡した。
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