企画用

□その少年嘘通じず
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「うん、色々あった。電子レンジの中で卵が割れたり、ストーブの中で料理が焦げたり」聞いた自分が馬鹿だったと、錬磨は溜息をついた。その誠という男の気苦労に同情する。周りで鳴く蝉の声がやたらと大きく声に響くような気がした。どうも錆付いた思考は現実逃避を始めようとしているらしい。

「その誠がよく行く場所は?」錬磨が聞くと、またしても少女は視界を宙に彷徨わせて考える。それから人差し指を上げて彼女は小さく呟いた。アニメだったら顔の横に電球マークでもつきそうだ。
「学校。後、家。それからスーパーとか?」

「多分、その3つは誰もが行くようなところだと思うよ」

 その彼がよく行くというスーパーへと2人は足を運ぶ事とした。これまで錬磨が解決した事件と比べるととてもスケールが小さい。尾行も聞き込みも何度かした事はある。そこで掴んだ何気ないことが事件の解決に繋がる事もあるからだ。だが、今回はどうだ。事件そのものが小さく、解決出来た所で誰かが救われるという事もない。それに。

「その誠って人。別に、何か悪い事をこそこそしようとしてるわけじゃないと思うよ」錬磨の言葉に少女はえ?というように顔を傾けた。何か頓珍漢な事を言う前に錬磨は続けて言う。

「君の話しぶりからしても別に、彼が悪い人間ってわけじゃないみたいだし。君の為になんかしようとしてるんじゃないかな」

「私の?」

 少女は驚いたように聞き返した。誠がそういう事をするはずがないという驚きとも違う。自分が人にそんな事をされるとは思いも寄らなかったというような驚きだ。どうやらこの少女は余程の馬鹿か、お人よしなのだろう。
 商店街のやたらと賑やかな道路まで来た時も彼女はまだ考えていた。その目がしきりと動いては、店の看板を捉える。どことなく外国の人みたいな雰囲気があった。字を見てはしきりと考えている。

「すごいやまだ」スーパー・YAMADAの看板を見て少女はそんな事を言って首をかしげた。首を傾げたいのはこっちの方だと錬磨は思う。

「誠って君の兄弟か何か? それとも友達?」

「同居人」

 少女は即答した。同居人……家族でないとすると一体なんだろうか。まさか本当にただ、一緒に住んでいるわけでもないだろう。仕事……をするにしては若すぎるし、もしかしたら家出娘かもしれない。家族と喧嘩してそれで、誠の家に居候しているとか……。そんな考えが錬磨の頭に浮かんだ。あえてそれには触れず錬磨は訊ねる。
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