企画用
□その少年嘘通じず
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「誠」少女が彼に向ってそう呟いた。おっと誠は呟き、それから――あぁ、錬磨の方を見て怪訝な表情になった。まあ、それも当然か。だが、まあ最初に話しかけたのは確かに自分の方からだが、是非家にと言ったのは少女の方なのだ。
断ってもよかったが、彼女の表情が屈託のない穢れのない夜空のように澄んだ笑みだったからだ。青空でもなく海でもなく夜空を練磨は連想した。ふと、錬磨は脳裏に浮かんだ物を口にした。
「月」
「え?」誠がぽかんと口を開けて言い、月は黙ったまま彼を見た。
「あなた、何でもお見通しなんだね」月は静かにそう言った。錬磨は黙ったまま。そして、誠はわけがわからないというように二人の顔を交互に見比べている。
「誠、今日もりべんじするんだよね?」
「は? え、あの、なんでわかった?」
手に持った買い物袋を掲げて誠は尋ねた。味噌に大根やジャガイモ、葱、豚肉、それに昆布。
「誠は一週間前に味噌汁に挑戦して失敗した。で、ここん所外に出ると全然戻ってこなかった」月はすらすらと唱えるように言う。
「アイサさん所で練習してたんでしょ?」
「あー……」と誠はそれほどには驚いてない様子でそう言った。料理失敗はよっぽど大きな事件だったらしい事が誠の紅潮した顔からわかる。月がどれだけ日々の生活に注意を払ってないかが分かる。
「ひとつ以外は全部当たってるぞ」
「何?」
月が尋ねると誠は顔を赤らめたまま告げた。
「あれは肉じゃがだ」