企画用

□その少年嘘通じず
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 誠が作った「肉じゃが」は練習の成果あってか、若干味付けが足りない以外はとても上手に出来ていた。茶碗にご飯がこんもりとつけられ、その左に野菜がたっぷりと入った肉じゃががある。

「いいんですかね、お邪魔しちゃって」


「いいって。今日は妹が友達の所に泊まっていていないのを忘れて人数分買ってきちまったし」


 言葉に甘えてジャガイモを口に入れた。歯ごたえのあるそして温かい感触が口に広がった。豚肉は噛むと肉汁が舌にしみて美味しかった。しまいに白いご飯を口に入れてやわらかくほかほかの感触を味わう。


「お、いい食べっぷりじゃんか」誠が笑って言った。横にいた月も口元に笑みを湛えている。それは錬磨が嫌っているような嘘で固めた笑みではない。それを探るのに、観察する必要など無かった。

 
 出来るならばいつまでもここにいたい。そう思った瞬間、彼の携帯が鳴った。錬磨はゆっくりとした手つきで画面を開いた。通話だ。それにメールも幾つか。通話を切り、メールを確かめる。心内が急に暗くなった気がする。その間にも電話が掛ってくる。メールで伝えようが、電話で伝えようがその内容が変わるわけでもなかろうに。



「あぁ、すみませんね。仕事が入ったみたいだ」


「バイトか何かか?」誠が尋ねると錬磨はふうっと溜息をついた。


「ま、そんなところ」


「そうか、じゃあ仕方ないな」


 誠は心底がっかりしたような表情で月を見た。


「ほら、礼を言え。なんか迷惑掛けたんじゃないのか?」
 

「そもそも、誠がこそこそしなければ巻き込むこともなかったのに」と月は少しむっとした表情になるが、礼をすることは忘れなかったらしい。


「ありがとう。楽しかった」


「どういたしまして」錬磨は月の表情に不覚にもどぎまぎしながらそう答えた。心の中が一瞬で洗われるような清々しさを覚えた。

 家の外まで見送られ、錬磨は駅に向かって歩き始めていた。電話は鳴りやまない。先程感じた清々しさはこのじめじめとした暑さで早くも無くなっていた。再び携帯を眺めてから錬磨は頭を切り換えた。


 そっと通話のスイッチに触れる。



「で、こっちの楽しい時を台無しにする程の大事件って何なんでしょうか?」



その少年嘘通じずEND
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