企画用

□その少年嘘通じず
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 大竹錬磨には不思議な能力がある。といっても魔法や超能力のような類の物ではない。人の仕草や表情、声から嘘を見抜く事が出来る。それが天性の能力だけではない事を錬磨はわかっていた。――嘘が嫌い。人一倍嘘に対して敏感に反応してしまう。たまねぎの嫌いな子供がその匂いを嗅いだだけで反応してしまうように。

 ある日、錬磨は不思議な少女にであった。その子は1人で住宅街の道を歩いていた。それだけならば別に何の違和感もない。だけど異様だったのはその服装。袿と呼ばれる平安時代に着られていた物の上に黒い狩衣を着込んでいた。その狩衣も肩から先がない。例え、彼女が平安時代の都にいたとしても奇異の目で見られた筈だ。狩衣は本来男性が着る物だからだ。錬磨は誰かが多少、変な格好をしていようとも気に留めない性格だったが、流石にこれには驚いていた。と同時に、話し掛けるべきかどうかで迷った。これもいつもなら有り得ない事だ。
 
  その少女は錬磨の事は気にも留めず辺りを見回している。黒髪にそれを際立たせる白い肌、眠たそうな瞳は感情に乏しいが、どこまで近づかれても安心できそうな包容力がある。何か困っているようだというのは、普通の人間でもわかることだろう。

「君、人探ししてんの?」

 少女とすれ違いそうになった時、錬磨は突然、そんな事を言った。少女は少し吃驚したように軽く目を見開いている。錬磨が何者なのかを探っているようでもある。錬磨が他に何か言うべきかと悩んでいると少女が口を開いた。

「誠って人を探してる」

人の事を言えないが、なんとも口下手という感じがする。さて、どうしたものかと錬磨が考えていると彼女は更に付け足す。

「なんか、私に隠し事をしてるみたいだった」

「ふぅん」

 錬磨は短く唸った。今日は特に何か事件も用事もない。平和な日だった。平和すぎて頭脳が退屈しているくらいだった。この少女についていけば、錆付いた思考を動かす事が出来るかもしれない。

「で、その誠とかいう人、どういう人?」

「なんかいつも疲れた感じでしょっちゅう溜息ついてる。あ、後苺が好き。嫌いなのは山芋。犬と猫だと犬が好き」

 どうでもいいような情報ばかりが、出てくる。錬磨は何となくイライラとして、聞いた。

「それで、最近何か誠関係で変わった事件とかは無かった?」

「事件?」少女は顎に手を当てて空を見上げた。ぼーっとしたその瞳が煌く。
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