企画用

□一周年記念 方術士見習いと和のこころ
1ページ/28ページ



青い海のなかに浮かぶ巨大な大陸ユーラシア。その大陸の丁度真ん中に大国アーストリア連合がある。アーストリアは北のノートラン、西のウエスタン、南のノルンディニウム王国、他多数の小国と昔から領土争いを続けていた。アーストリアから見て東の大和海を挟んで隣にある国、信濃国も例外ではなかった。

信濃国は元々、方術士と呼ばれる自然の神秘的な力、‘気’を使う者達によって守られていた。彼らは方術を使い戦うが、多くの場合は、交渉によって戦いを避けることを考え、戦う場合でも相手を戦闘不能にすることを第一に考え、力に任せた戦闘ではなく、敵である相手すらも気遣う戦いをする者こそが真の方術士であると言われた。




彼らは長く信濃国を守護し続けたが、やがて彼らの失墜するときが訪れる。

それがアーストリア国の進出だった。当初、アーストリアは信濃国を占領するどころか、攻撃するつもりすらなかった。が、あるとき信濃国の間で不吉な噂が流れた。「大国アーストリアがここ信濃に攻めてくる」という物だ。

噂は初めは都市伝説程度の小さな物だったが、やがてそれは何年もの年月を経て国中に広まった。この広まった理由については、アーストリア連合があちらこちらの国と領土争いを続けていたことが少なからず関係していたと言える。

広まる噂にたいして、方術士もただ見守っていたわけではない。

「アーストリアは様々な国とにらみ合っている。わざわざこの国に戦争を仕掛ける余裕はない。」と市民に諭した。

それにより民衆は収まったかに見えた。

しかし信濃国の政治家達は頻繁にアーストリア国の危険性を訴え続けた。そして彼らは信濃国の軍備増強を推し進めて行く。政治家達の目的は表向きはアーストリア国に対抗するため、だが彼らの真の目的は国内の支配を確実にすることだった。信濃は様々な小さな国や組織を寄せ集めたいわば烏合の衆のような国であり、格国ごとの民族同士の争いを方術士が解決していた。

が、政府はそういった状況が気に入らなかった。彼らはなんとかして国民を自分達の元で一つにさせ、そして方術士も自分達の手ごまのように操れる治安維持部隊のような物にしようとしていた。

政府が陰謀をめぐらせている中、遂に事件が起きる。

信濃国の軍艦とアーストリア国の軍艦が大和海で砲撃戦をし、アーストリア国の軍艦を信濃国が沈めてしまったのだ。

このときの事件は信濃国の領海にアーストリア国の艦が迷い込んだことによって引き起こされた偶発的な戦闘だったが、信濃の政府はこれを大いに利用した。
「アーストリアがついに我々の領土を侵し始めた」と。

政府の予想通り国民はパニックに陥った。長く信濃国は外からの攻撃を受けたことがなかったからだ。
方術士達もこの事態を収めることは出来ず、
両国の関係は、日に日に悪化していきついに両国は開戦する。
外からの攻撃に対して国の内部は一致団結して政府に従うほかなくなった。そして方術士達も戦争という非常事態に対して政府に従うほかなくなった。全ては政府の思い通りだった。
方術士はもはや、平和の守り主などではなく政府の傭兵に成り下がり、たとえ敵であっても殺さないという彼らの理念も失われていった。

開戦当初は方術士の活躍や強力な火器を持つ軍艦によって戦いを有利に進めて行った信濃国だったが、アーストリアの圧倒的な物量と優秀な兵器によって一気に国の崩壊の危機にまで追い込まれていった。

考えてみればいくら方術士が強力な兵士であっても一般兵の数の差、軍艦の数の差で信濃国に勝ち目がないというのは誰にでも分かることであったはずだった。

アーストリア国がついに信濃国本土に上陸し、信濃に対して降伏を呼びかけたが、政府は強固に戦いを続け、方術士団もそれに引きずられるようにして戦いを続けた。彼らにはもう戦いをやめるように政府を説得するだけの力がなかった。皮肉なことに戦争によって彼らは政府が望むとおりの戦うだけの戦士と成り下がってしまったのだ。

首都が落とされ、信濃国はようやく降伏した。




 その信濃国とアーストリアの戦いより丁度10年の時が過ぎ去った。

弥生の月の10日

信濃国で一人の少年が己の運命と向き合う。その時が来ていた。この世界に小さな変化の波紋をもたらす少年の物語がここから始まる。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ