企画用

□小雪少女
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「うわっ!!」


 横合いから投げつけられた雪玉が伊織の頭に直撃し、彼の身体が雪の大地に埋もれた。蓑が雪を被り、頭に被っていた笠が脱げた。頭の真横。子供の玉ではない。誰の仕業かはすぐにわかった。

「あ、当った。当った。」

 という女性の声が聞こえた。伊織と同年代の17の娘だ。腰の近くまで伸びた黒い髪に化粧っ気はまるでないのに真っ白な肌。その瞳は感情が薄くぼんやりとしているが二重瞼が特徴的な美人に分類される娘だ。それも人に冷たさを覚えさせるような美人ではなく、近寄られると温かくなるような安心感を与える感じの美人だ。春花という名のその娘は、雪玉を投げた体勢のまま、伊織をそのぼんやりとした瞳で見ていた。

「くそう、不意打ちとは卑怯なり。」

「ふふふ、合戦に卑怯もへったくれもない。」

「ぬう、積年の無念!晴らしてくれる!!今日こそ勝つ!!」

と伊織はすぐさま、雪玉を作り反撃しようとしたが、その伊織の身体にポコポコと雪玉が当てられる。子供達だ。彼らは春花を守るように陣形を作ると伊織目掛けて雪玉を思いっきり投げつける。

「春花ねえちゃんをいじめるなー!」というのは女童からの声。

「春花姫をまもれー!」というのは男童からの声。どうやら、姫君を守る侍か何かに成りきっているつもりらしい。美人ってのはそれだけでお得なのだなと伊織は心中で溜息をつく。

「まてまて!お前達の目は節穴か!あれがか弱い娘に見えるのか?あれはむしろ本性を隠した雪合戦の鬼・・であ・・・。」

 その声が大量に投げつけられる雪玉で途切れた。頭にやたらとぶつけてくる娘を恨みつつも彼はまるで反撃できなかった。



 その後、しばらく童共との遊びにつき合わされた伊織は、ふらあっとした足取りで家へと帰ってきた。家には父の勝田がいた。

「おう、帰ったか。伊織。なんじゃ、やけにぼろぼろじゃの。どうせ、村の餓鬼共と遊んでいたのじゃろ。」
 
 と、勝田は興も無さげに火鉢の傍でそう言った。彼の他に伊織の家族はいない。母のおそのと妹のゆいさがいたが、どちらも彼が戦に行っている間に病で死んだ。勝田だけはその病に掛らずこうして生きている。その事をこの男はいつも気にしている。
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