企画用

□dream 鬼と人と
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 今日も外は暑かった。熱線が太陽から降り注ぎ、コンクリートからはゆらゆらと熱気が漂ってくる。來吏はその道の中をふらふらと歩いていた。体は火照り、汗が顔を伝っては垂れるが、本人は特段それを気にする風でもなく、ハンカチで拭き辺りに目を回している。

 辺りはこの暑さのせいか人影は少なく、その少ない何人かもどこか追われるように歩いていく。


「うん、なんか面白い事起きねえかな。人生が一変してしまうような何か」


 そんな事を呟きながらふと前を見ると、一人の少女が目に入った。ただ、それだけなら來吏も注目しなかっただろうが、その少女は明らかに周りから浮いていた。白の袿に黒の狩衣。その狩衣も胸の所に陰陽が描かれており、異質だ。

 あれに関われば絶対に面白い。普通の人間なら考えないような事を思って來吏はにやっと笑った。周りはまるで少女が見えていないかのようにその傍を通り過ぎていく。気づいているのは自分だけのようだった。

 と、その少女と目があった。ぼんやりとしたその瞳には攻撃性のような物を感じられない。


「見つけた」少女は言うと同時に目の前で九字を切った。いつの間にか握られた札が四方に飛び散った。その札からは白い流星のような光が伸び、札と札同士を繋ぐ。



「人払い、封印の場、展開」歌うように少女が言うと四角く囲まれた場所以外の景色が消え去った。まるでそこの空間だけが隔離されたかのような現象だった。



「おぉ、すげえ!!」來吏の言葉に少女は初めて表情を変えた。


「え……」


「月!」少女の物ではないが同じ高さの声が辺りに響いた。少女は、黙って頷きその声に従った。少女は腰を屈めて、來吏めがけて突進した。


「お?」來吏が興味深々という感じに呟いた。少女の右手のところが白く光ったかと思うと、次の瞬間には夜空のように黒い太刀が握られていた。


 タンっと少女が地を蹴り、一気に距離を詰め、來吏の肩をつかんだ。


「ちょっと借りる」少女は言うと同時に來吏の肩を使いさらに飛んだ。


「なにい? と、うおわ!!」


 來吏はわけもわからず、前のめりに転んだ。少女は空を箒星のように駆け上がり、空中にいた「それ」に向かって太刀を振り下ろした。

 つんざくような声に胃がよじれる感覚を覚え來吏は耳を抑えた。

 怒り、憎しみ、悲しみ、痛み、負の感情が脳髄を焼き付けるようだった。人間のありとあらゆる愚かな行為が記憶から呼び覚まさせられ、來吏は膝をついた。



「何だ、今の」

 荒い息をつきながら、來吏は辺りを見回した。気づくとそこはいつもと変わらない普通の世界だった。


「よ!」


「おわ?!」 

 驚いてのけぞったそこには、さっきの少女がいた。いや、違う。さっきの少女とそっくりな顔をした別の少女がいた。髪は赤く、緋色の袴と白い狩衣を着込んでいる。


「巻き込んで、ごめんねー。人払いで逃げないやつなんて今までいなかったからさ」少女はぜんぜん悪びれる様子もない感じで言った。


「あー、いやそれを言うなら俺もだ。面白そうだと思って、話しかけようと思ったのが間違いだったかな」


 
「へえ、面白いね、君」と少女は笑った。それから辺りを見回した。周りを歩く人間は皆、座り込んでいる來吏をちらっと見ては立ち去っていく。なんだか、自分だけがおかしいかのような反応だった。日向はそんな彼らを興味深そうに見渡した。


「他の人間には通じているのになぁ。もしかして、君人間じゃないね?」
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