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□call to my name
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呼ばないで
視ないで
呼んで
見て
call to my name
それは、予想外の出来事で。
まさか自分の身に起こるなんて考えもしなかったあの時。
後藤が石神に呼ばれて、公安に配属になったのは、時期も少し外れた蒸し暑い日の事だった。
『死んだような男だ』
と噂を聞いて、石神は後藤の元に足を運んだ。
最初の印象は、最悪。
漆黒のはずの髪は、ぼさぼさに乱れ、中には白く薄く色づいた毛も見えた。
着ているシャツはくたびれて、折角の長身を猫背に折っている。
目があった瞬間に感じた虚無感。
こいつは、この先だめかもしれないと、何故か自分の胸が痛んだことに石神は違和感を覚えた。
「公安に来ないか」
何故、そんな印象の男を呼んだのか、石神にはまだわからなかった。
それから数月が過ぎて、後藤の公安配属が決定した。
二度目に会ったときには、初対面の印象より大分生きた瞳をしていたが、それでもどこか遠くを見ているその黒い瞳が、石神には強く残った。
「今日歓迎会など…」
切り出した男を、石神は不思議に見上げた。一瞬何のことかわからなかったからだ。
公安では珍しく、気が回る男で、まだ日は浅いが雰囲気作りに一役買っている。
彼が切り出した話は、後藤が配属されて一週間くらい経った時の話だったから、ああ、あいつに気を利かせているのかと、石神は納得した。
後藤の以前の荒れ様と、
その原因は周知の事実で。
「………今週の木曜日なら、人が集まりやすいだろう」
公安には決まった休みなどないから、石神は手帳に細かく記載してある部下の予定と、自らの予定をあわせ見てそう返事をした。
「わかりました!」
少し笑顔になった部下には申し訳ないと思うが、
あの男が誘いにのるとは思えない。
石神は予定が入らないだろうと予測して、木曜日の欄には何も記さなかった。
石神は驚いた。
結局歓迎会を仕切ることになったのは言い出しっぺの男になったのだが。
律儀に出欠席の表などを回して確認しているらしかった。
その表を回されて、驚いたのだ。
後藤と書かれた名前の横に、雑ではあるが、確かに丸が書かれている。
出席…するのか、と。
机に置いていた黒い万年筆で、石神はすぐに自分の名前の横に、丸を書いた。
その手は、少し震えていた。