作文。
□オレはプレッシャーに弱い。
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「みんなー!おにぎり出来たよー!」
夕方。マネージャーの篠岡が両手にでっかい皿を抱えてやってきた。
その皿には部員10人分のおにぎりが所狭しと並べられている。
出来たてのおにぎりからは白い湯気がたちこめて、キツい練習でバテバテだったオレ達の食欲を存分にそそった。
篠岡の声が聞こえるやいなや、野球部の部員たちはすぐさまおにぎりに群がっていく。
オレも自分用のおにぎりを受け取って大口でいっきに食らいついた。
疲れた体にエネルギーが染み渡る。
「あっ田島!それオレのたらこだぞ!」
「えぇーもう食べちったよー!」
田島の周りは今日もにぎやかだ。
隣には阿部や三橋も座っている。
オレはベンチに座って、奴らがしゃべっているのをじっと眺めていた。
「いいなーなんで三橋だけおにぎり3個なの?」
早々に食べ終わった田島が、3個目のおにぎりに食いついている三橋を羨ましそうに見ながらそう言った。
「あ、むほ……」
「コイツ体重減ったから戻るまで数増やしてもらってんだよ」
口にまだ米が入ったままの三橋の代わりに阿部が答える。
本人は頑張って最後の一口を飲み込もうとしていた。
「へー」
納得したように田島が頷く。
「ところで、今日は何キロだったんだ?」
「むぐっ、んと、ごじゅ…い、や、に…」
「あぁ!?」
「ひっ、ごじゅ、ごじゅ……」
「なんつってんのかわっかんねーよ!」
「ひえっ!」
怒声と同時にくり出されるうめぼし。
阿部と三橋のこういうやりとりは、西浦野球部においてはもはや日課となってしまっている。
怒鳴る阿部に、
ビビる三橋。
オレもわりと短気で怒りっぽい方だけど、阿部ほどではないと思う。
そんな阿部が人一倍ビビり屋の三橋とバッテリーを組んで、なんとか会話しようと毎日努力してんのは、はたから見てると実にいじましい。
まぁ、そんな努力も現時点ではいまひとつ実を結んでないのが残念なところではあるけどな。
……なんて、他人事のように言っているが、オレだって似たようなものだ。
別に、ただのチームメイトだし、友達みたく仲良くなる必要はねーけど。
なんか……イライラすんだ。
三橋の行動がいちいち、腹ただしくてイライラして。
でもオレは一応キャプテンだし、三橋をいじめたいわけでもない。
だからそういう気持ちをなくしたくて、理解したいと思うのに、なかなかうまくいかない。
栄口や田島が難なく飛び越える壁を、オレはいまだに打ち破れずにいた。