作文。

□オレはプレッシャーに弱い。
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花井梓。
16歳。
県立西浦高校野球部主将。



突然だが、オレには悩みがある。

いや、悩みなんて誰にでもあるもんだし、他人からみればオレの悩みなんて別に大したことじゃないのかもしれない。

しかしオレは、最近かなり真剣に悩んでいた。

同い年の人間とコミュニケーションをとるのは、こんなにも難しいことだったのか……!?





「じゃあ最初キャッチボールからね!」

「はい!!」

監督の声に答えてグラウンドに走る。

「三橋、今日のキャッチボールはオレとな」

オレは近くにいた三橋に話しかけた。
オレの声にビクッとしながら振り向く三橋。

「はっ、はい!あ、でも、あっ阿部く……」

「阿部?阿部は担任に呼ばれて練習ちょっと遅れるって。さっきも言ってただろ?」

「そ、じゃ……」

「なに?」

「さんじゅ、って……」

「???」

オレは脳みそをフル回転させて、三橋の言葉の解読を試みる。

だめだ。

今日もだめだ。

何を言いたいのか、さっぱりわからない。

青ざめてビクついている三橋を前に、オレは頭を抱え込んだ。

そんな時ふと救済の声が聞こえる。

「30球だって」

栄口だ。

オレ達の様子をみていたのか、そばに寄ってくる。

「今日のキャッチボールは30球に抑えておけ、って阿部に言われてたんだよな」

「う、うん!」

栄口の言葉に、三橋は嬉しそうに返事をする。

なんでそんなことわかんだ?

キャッチボールのため、三橋は少し離れたところへ駆けていく。

それを横目にオレは尊敬の念をこめて栄口を見つめていた。

「……すげーな、栄口」

「なにが?」

「なにがって……。なんでそんな三橋の言ってることわかんだよ」

「あぁ、さっきのはオレ、たまたま朝練のとき阿部が三橋にそう言い聞かせてたの、近くで聞いてたから」

「そうじゃなくて!今のだけじゃなくて、なんつーか……いつも栄口は三橋の言ってっことちゃんとわかるだろ?なんで?」

「なんでって言われても……」

どう答えるべきか迷っている栄口。

栄口にとってはごく普通のことなんだろう。

こんなこと聞かれて戸惑う気持ちもわかる。わかるが。

栄口の様子をみて、オレは妙に情けない気分になった。

そんなオレをせせら笑うように、セミの声がやかましく鳴り響く。
練習前に篠岡が水をまいてくれたグラウンドは、強い太陽に照らされてジュワジュワと音を発していた。



……イライラする。


イライラすんのは、多分暑さのせいだ。

オレは、左手のグローブをパンッと鳴らして、目の前にいるエースを見つめた。

チームメイトの、しかもエースと、ろくに会話も成り立たないオレは、キャプテン失格なんだろうか……。
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