作文。
□ヒーローの背中
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「おにーちゃんのて、いたそぉー……」
家のソファーに座ってテレビを観ていると、妹がオレのマメだらけの手のひらを握ってきて、そう言った。
ところどころマメがつぶれて血が滲んでいる手を見て、泣きそうな顔になっているのがなんだかおかしかった。
「だれかにいじめられたの?」
「えっ」
「おにーちゃんのぶかつのひと?」
「いやいやっ、ちがうよ!?」
とんでもない勘違いをしている妹の発言に慌てて訂正を入れる。
「これは、頑張って毎日練習してるからこうなったんだよ。お兄ちゃんが頑張った証拠なの!」
「そうなの?」
「そうなの!」
そういうとようやくホッとしたように「なーんだぁ」とつぶやく幼い妹にオレも安堵して、そのままもの珍しげにマメを触る様子を黙って眺めていた。
『頑張った証拠』なんて、自分で言ってて違和感がある。
マメが出来るくらい練習したって、所詮自分はまだまだなのだとわかっているからだ。
もともと野球の経験があって、さらに現在進行形でどんどん成長していってるチームメイト達を目のあたりにする毎日。
初心者の自分はそれよりもっともっと頑張らないと、決してあいつらには追いつけない。
満足なんて、していられない。
眠る前や学校にいる時など、ふとした時に蘇る夏大の記憶。
今でも思い出すだけで背筋に冷風が突き刺さるような気持ちになる。
あの時、誰もオレを責めなかった。
いっそ罵って欲しいとすら思ったが、泥だらけの手が肩を優しく叩いただけだった。
それが余計に悔しくて、情けなくてその場でオレは倒れ込んで大泣きした。
もうあんな思いは二度としたくなかった。