頂き物
□謡、唄 「茶屋」様相互記念文
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謡、唄
淡く、耳に届いたその__は。
「………おや、なんでしょう。」
この澄んだ音色は。
ベンチに座り込んでいた私の足を動かしてしまいそうなくらいに、その音は誘う。空気中をゆらゆらと揺れ、薄れていきそれでもなお自分を保っている様な、そんな音。儚さと凛とした、いったいなんだろうこの正体は。発生源は、
…気になる。ならば、
行くしかないでしょう。その場へと。
徐々に近付いてき、その音も大きくなっていく。杖のコツコツ言うのが邪魔だと思ったので、使わないで歩くことにした。
死んでしまう確率は引き上げられる。だが、それは音の聴こえやすさも上がるということ。頼りにそのまま進んで行くと、小さな公園に着いた。記憶を信じれば確かに公園だったと思う。しかし、ほぼ寂れていて今では訪ねる人も居ないのでは…。そう考えながら移動すると、その音の生まれる場所へ着いた。暫くその場で聞き惚れるが、ある聞き覚えを感じたその時。音を誰が産み出しているのかを私は理解した。それは、その声は。
「………、あなたでしたか。」
いやはや、全く気付きませんでしたよ。何度も聴いて、慣れた声だと思っていたのに。私もまだまだ、ですかね。
「ハンディさん。」
「っ、モールさん!?なんで、こんなところに」
「素晴らしい音色に誘われて。あなた、先ほどまで歌っていらっしゃったでしょう。」
そう言いながら意地悪く笑うと、彼が戸惑って息をつまらせる気配を感じ取った。無遠慮に近寄ると唸り声も聞こえる。照れ屋さんですね、
「とてもお上手でしたよ、もう一度歌っていただけませんか。」
「でも、俺下手で音痴ですしっ。モールさんに聴かせたら移りそう「と・て・も、お上手です。」
この方は謙虚すぎる。少しは自身を持って欲しいものだ。そう思ってため息を吐くと、怒っているのではと勘違いされてしぶしぶ歌いだすハンディさん。
ら、ら、らと段々上がる音程に合わせて私の瞼は降りる。先ほどから聴こえてきたものと同じで、歌詞の無いそれは、おそらく即興で歌っているのだろう。いつの間にか寂れた公園は、私専用の歌手の舞台となっていた。柔らかく包み、弾みだす音符。時折入るハミングはあたたかみをこの場所に運んで来ていて。
ふと一瞬、あなたの姿を見れた気がしたのでしたけれど。それは錯覚、なのでしょうね。目も綴じているというのに。けれど忘れない様に記憶に留めておく私は、なんと未練がましい。
頭のなかの混雑したそれを誤魔化すように、腕の包帯の上から口づけを落とす。その瞬間、音階が一気に三段階上がった。
Fin.
(どうやら私はあなたに引き寄せられてしまうみたいです。)
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いやっほおう!神文章享け賜りました!
家宝にさせていただきます!
相互リンク有難うございます!