邪馬台幻心夢(後)

□巡り逢う邪馬台
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壱与からの突然の申し出にこいしは驚いていた。だが紫苑は動揺もなく返答を返す。

「…無理だ」

「!」

「厳密には…今の俺の力では此処を抜け出すことすら出来ないって意味だけどな」

「でも紫苑君は修羅を退かせた程の心具があるじゃない!あの強い想いの力でまた…!」

「心具はもう…使えないんだ」

「え…?」

「今の俺に…戦う意志はない。護る為の刃…それを振るう自分の姿を忘れてしまったんだ」

「紫苑…」

「そ、そっか……こんなところに居るってことは紫苑君にも色々あったんだもんね。いきなり変なこと言ってごめん……私もどうかしてたよ。今はゆっくり休んで……それで少しでも心に余裕が出来たら…もう一度だけ私のさっきの言葉…考え直してみて…」

「………」

再び失わない為に振るっていた刃。だがもう一度失った反動で護ることに恐怖が芽生えて戦う自分の意志を封印してしまった紫苑。そんな彼の身を案じて壱与はそう言うと2人に寝床を案内すると言って席を立つ。

「空き部屋だらけだから気に入らなかったら別の場所でも良いけど大丈夫なら此処使ってね。ご飯は時間になったら心武衆の人が持ってきてくれるから料理の心配はないよ」

「………」

「じゃあ…今日はゆっくり休んでね…」

色々なことがあった。いろんな真実を知って紫苑の心の中ではあらゆる感情が交差する。陰陽連の世界統制…神威力の力…争いの根絶……今迄悪と耳を傾けなかった紫苑だが今は少し違う。戦いのない世界以上に幸福なものはないのだとしたら……自分が今迄してきたことは間違いだったのかもしれない。そのせいでフリージアを亡くしたのならば…尚更だ。そう思って強い責任感が紫苑の心を再び蝕もうとした時……こいしがギュッと後ろから抱きしめてくる。

「…こいし」

「大丈夫だよ紫苑……例えどんな結果になってもこの先何があっても…私だけは紫苑の味方だから…」

「!」

「ずっと…側に居るからね…」

「…っ……」

彼女の自分を想う気持ちは本物だ。それが胸に刺さって儚くも切なくも…少しホッと安堵した。きっと自分が今後どんな選択肢を取っても彼女は着いてきてくれる。胸の重みが少し軽くなったように感じた……それならば…いつかその選択肢が訪れた時…自分が素直に思ったことをすれば良い……立場など…組織など…形振りなど関係なく…成すべきと思ったことを一一

「…ありがとう」


紫苑

空っぽの少年
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