邪馬台幻心夢(後)
□今の自分に出来ること
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「だから私はそんな自分が…他人が嫌いだった。己の感情を制御出来ない人間は不完全な存在……辟易する話しでしょう?でも…こいしはそんな私の思想を変えようとしてくれた」
「こいし…ちゃんが?」
「…少し歩かない?」
そう言って縁側に置いてある自分のブーツを手に取ってそれを履く艶㮈。レンザも履き物を履いて庭に足を付けると艶㮈は竹林の近くまで歩いていく。すると彼女に気付いた兎達が一斉に飛び跳ねて足下にじゃれ付くように顔を擦り付けてくる。
「まだご飯の時間じゃないわよ」
「随分…懐かれてるんだな」
「動物も感情のままに生きている筈なのにこの子達からは悪意がないの。不思議でしょう?」
「…そうだな」
「けど動物は私達人間の感情を肌で感じ取ってくれる……よっぽど人より優れていると思うの」
「………」
「話しを戻すわね。貴方達が突如眠りに落ちた異変…表裏異変って言ったかしら?あの異変後にこいしが永遠亭に来たの」
「こいしちゃん…艶㮈ちゃんにもお礼を言いたいって飛び出して行った時のことだな」
「あの子も感情のままに動くでしょ?その時はお礼を言いに来ただけだったのかもしれないけど…私に人里を案内するって言い出したのよ。思ったことをすぐに実行に移す感情の恐ろしさは私も知っている。けど…危険視する私の内心とは裏腹にこいしは純粋な気持ちで私に紹介をしたいって一心だけで…動いていたの」
「!」
「あの子と居ると…本当に調子が狂うわ。今迄の自分の思想が馬鹿馬鹿しく思えてくる程にね……あの子の無意識ってきっと…そういうものなんだわ。いえ…これが本来の人の…妖怪の本質なのかもしれない。私の思想が…一部の歪んだ感情なだけで…」
「艶㮈ちゃん…」
「人間は嫌い。そう思っていた私だったけど人里の…あの人達は私の知ってる人間とは違った。みんなが心から笑って…楽しそうに過ごしていたわ。そこに裏表もなく…私を歓迎してくれた」
「…良い人達ばかりだからな人里のみんなは」
「…だから私も…変わらないといけないのかもしれないって…思うようになった。こいしには言えないけど…私も感謝しているの。あの子には…」
「………」
「だから…レンザも過ちを気に病むだけじゃなくて…前に進みなさい。乗り越えていけるだけの強さ…貴方も持ってるでしょう?」
「…ありがとな艶㮈ちゃん…励ましてくれて」
「別に。あの縁側は私の特等席だからいつまでも占領されてちゃ困るから声を掛けた……それだけよ」