邪馬台幻心夢(後)
□空っぽの少年
2ページ/8ページ
紫苑が陰陽連の本部に移って14日が経過した。長い間意識を失っていた紫苑が漸く目を覚ますが、その顔は生気を失ったままの陰が残っていた。
「…俺は…」
少しずつ…記憶を辿った。そして蘇るものは全てが…紫苑の心を蝕んだ。フリージアが自分を庇って命を落とし、その憤りから矛先をトレインに向けて、最後は心武衆の中に自身の残された最後の肉親である母親の姿があったことを思い出して頭を押さえる紫苑。
「なんで…こんな…」
いったい何処から歪んでしまったのだろうか……もう今の自分には何も残っていない。溢して落として無くしてしまった全てに紫苑は虚無を抱く。すると彼が目を覚ましたのに気付いてこいしは無意識を操り認識可能にしたと同時に目に涙を浮かべ紫苑を抱きしめた。
「紫苑…良かった…良かったよぉ…!」
「!」
「本当に…心配したんだよ…!」
「…こいし…か…」
突然目の前に現れた少女にさえ…紫苑は渇いた返答を返すことしか出来なかった。それ程までに他者に対する関心が削がれてしまったのだろう。変わり果てた彼を前にある程度覚悟していたこいしだったが、実際に目にすると辛い…
「紫苑…大丈夫…じゃないよね…」
「…なんでお前が此処に居る?いや…此処は…何処だ…いったい…」
「此処は陰陽連の本部だよ。私…紫苑が永遠亭を飛び出した時にずっと後を付けてたんだ。無意識を操って誰にも認識出来ない場所でずっと紫苑を見ていたの」
「………」
「そしたら紫苑は心武衆の人と戦って…やられちゃった紫苑は異空間を通って此処に連れ込まれたんだよ」
「………」
「ごめんね…本当は助けてあげたかったけど…私だけじゃあの人達から紫苑を取り戻すことなんて出来なかったから…せめて側に居たくて私も異空間の中に飛び込んだの」
「………」
「14日も目が覚めないなんて…本当に不安だったけど…またこうして話せて嬉しいよ紫苑」
「…今の俺に生きる価値なんてないのにな」
「えっ?」
「もう何も…残ってない。いや違うな…残った繋がりさえ俺は棄ててしまったんだ。自ら虚無に堕ちたと言った方が正しい…」
「何を…言ってるの?」
「今の俺は…空っぽだ」
「違う…違うよ紫苑!紫苑は空っぽなんかじゃない!レンザに艶㮈にみんなが…私だって…!」
「もう俺に繋がりは…必要ない」
「!!」
「駄目だった……また失ってしまったんだ。何が…護るだ……笑わせるな…何も…何も護れなかった……無駄だったんだ…これまでの全てが…!」