野良猫幻想夢(上)

□その名は幻想郷
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調理から数十分が経過する。霊夢は朝食を
作り終えると昨日と同じような流れで丸い
テーブルの上に料理を置いていく。

「「いただきます」」

そして置かれた料理を箸で掴みトレインは
自分の口に含むと満足そうに言った。

「この煮魚美味いぜ!」

「そう。なら良かったわ」

「それにご飯にお味噌汁、そして煮魚とはまたベタだな!」

「それ褒めてるの?」

「勿論」

「なら良いけど」






お互い短い返答で会話を繋げその後朝食を
食べ終え乾燥が終わった自分の服に着替え
トレインは博麗神社の境内に出ると石畳の
前に立って霊夢に改めてお礼を言った。

「色々世話になったな」

「まぁ困った人を見捨てる程私も非道な人間じゃないわよ」

「だろうな」

「?」

「そんな明るく笑えるんだから悪い奴には見えねぇよ」

「明るく…ね…」

「!…」

「トレインも明るいじゃない」

「俺はここ最近にこんな感情が出せるようになったからな…」

「えっ?」

その言葉の意味がイマイチ分からなかった
霊夢だったが敢えてその理由を聞こうとは
しななかった……人には知られたくはない
過去が少なからずあると知っていたからだ
……そしてそれは自分も例外ではない…と

「…それでこれからどうするの?」

「とりあえずこの近くを探索してみるよ」

「そう…」

普通なら絶対止めなければならなかった。
幻想郷の妖怪達が出没するこの地の地形も
ロクに知らない人間をこのまま行かせては
ほぼ命を落とす……それもまだ『能力』を
開花すらしていないそんな人間など尚更…
だが霊夢は止められなかった。その無謀な
男が今神社を旅立とうとしているのを……
それもまた何故だかは分からなかったが…

「また何かあったら世話になるぜ」

「!」

「じゃあな」

そしてトレインは博麗神社を後にした……
その背中を静かに見つめる霊夢は何かを
感じたのか胸に手を置きながら呟いた。

「あの背中……何だか寂しい雰囲気を感じさせるわね……それに少し懐かしいわね。『あの頃』をまた思い出すなんて…」

…野良猫の過去を物語るようなその背中は
不思議と霊夢にはそう感じさせた。そして
霊夢からも最後に呟かれたその一言はまだ
今は明かされることのない……

一一一一一静かな全ての始まり

そしてトレインは神社の石段を一歩ずつ
下りていき霊夢の視界から消えていった。



紅蓮の紅魔館

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