カレーの神様
□カレーの神様 ごちそうさま
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世の中にはやおろずの神様がいるそうです。一体私の神様は、どんな神様なんでしょうか。でも、私は今の所、幸せみたいです。そしてお父さん、お父さんの人生は、幸せでしたか?
私の神様
簡単に荷物を整理する。
私に与えられた部屋は先輩の隣り。
神田先輩との話し合いの後、先輩のお父さんの所へ戻るとすでに父親のティエドールさん(という名前らしい)は、うちの高校に連絡を入れてルベリエ校長に話をつけていた。そしてその話を聞いた私は素直に感心していた。ああやっぱりこの親にしてこの子ありだ、と。
だってまだ私達の話し合いの結果も知らないのに、校長と話をつけちゃうなんて、勝手以外のなんでもなくない?いや結果的にOKだからいいけどさぁ。
それから簡単に家の中を案内されて(広いんだこれが)、神田先輩のご兄弟を紹介された。音楽関係の仕事をしている長男のマリさんも、スポーツ関係の仕事をしている次男のディシャさんも、今日は仕事でいなくて会えずじまいだったが。ちなみにティエドールさんは画家らしい。あのアトリエを見た後では納得だ。
でも私、絶対に神田先輩は一人っ子だと思ってた。だけど末っ子って言うのも納得だな。だって我儘で実は甘えん坊っぽいし?
さっきの拗ねたような顔を思い出してくすりと笑うと、「何かムカつく事考えてんな?」と頬を摘まれた。いひゃい、なんれわかったんれすか。
また痛い頬をさすりながら、恨みがましく先輩を見上げると、今度はちゅっと手の甲ではなく唇にキスされた。もちろんティエドールさんの目を盗んで。
「ん?どうしたんだいえみるちゃん」
顔赤いよ?
ええ、あなたの息子さんのおかげでね。
熱くなる顔を押さえる横で先輩はニヤリとしていた。
「本当にえみるって神田に流されやすいわよね」
私の服を畳んでくれながら、リナリーは溜息を漏らす。
「そうですよ。婚約なんて、騙されてはダメですよ?」
呆れ顔のアレンはダンボールを運んでくれている。
「でも思い切ったよなぁ」
ラビ先輩は勝手に私の衣装ケースを開けて物色中…って待て、ちょっと!
「何やってるこのバカ兎!」
片付け途中の新しい私の部屋に入ってきた神田先輩は、どげしっとそんなラビ先輩を蹴り飛ばしていた。
「あっ、手伝います!」
先輩の手には大きなおぼん。その上にはお蕎麦。そう、私が神田先輩のうちに越してきた記念、所謂引っ越し蕎麦ってヤツだ。
手伝おうと立ち上がりかけると目配せされた。座ってろ、という事らしい。
「神田のお蕎麦久しぶりだわ」
「本当に蕎麦バカですね」
「でもユウの打つ蕎麦は旨いさ〜」
口々に言いながら皆で車座になりそこに先輩が蕎麦を配っていく。
神田先輩のお蕎麦(手打ち)は本当にお店のお蕎麦っぽい。ちなみにアレンの前には一際大きい丼だ。
仲悪い癖にキチンとアレンにたくさん作ってくるあたり、妙に几帳面な神田先輩っぽい感じがあって、私は内心苦笑する。
そして皆揃っていただきます。
「うん、おいしいわ」
「全くさ」
「まあまあですね」
「…テメェは食うな」
アレンの言葉に先輩がちょっとキレた言葉を返している。
うん、おいしそう…おいしそうなのに。
「…熱い」
また舌を火傷した。
「もうえみる、猫舌なのに慌てて食べようとするからよ?」
苦笑しながらリナリーが言う。
だって皆食べてるの見てたらおいしそうで、私も早く食べたかったんだもん。
「…見せてみろ」
口内で舌をもぞもぞ動かしていると、先輩が持っていた丼を置いて、私の顎を掴む。べぇっと舌を出すと「ああ、赤くなってるな」とその舌を指先で弾かれた。