□神田書店店長・神田その8
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なんとか場の空気を変えようとしていた私の発言を最初は見事スルーしていた店長なのに、『7人の小人』で反応するとかなんなのこいつ、と、思いつつも私から視線を剥がして後ろを振り返ってる。だからもしかしてデ○ズニー好きなのかなって少しだけ、私は微笑ましく思い(そんな風にでも考えないと今のこの雰囲気に負ける)ながらも綺麗な形の後頭部を眺めていたのだが。

「…ひー、ふー、みー、よ…4匹しかいねぇ」

「匹って…動物じゃないんだから。てか見えるの?」

なんかめちゃくちゃがっかりした様子で視線は私に逆戻り。だけどその妙に不貞腐れた表情がかわいいなぁとか…思うわけないし。こんなエロバカ相手にそんな甘っちょろいこと考えること自体あるわけないし。てかそれよりまずメガネなしでよく見えたなって…あれ?

「…メガネは?」

そうだ。あなたのトレードマークであるあのメガネさえあれば、私はここまで動揺しない。もっと冷静に躱すなり流すなり対処が出来たはずなんだ。ならばさあ!とっととあのメガネをかけたまえ!といきり立ったのに、返事はあっさり「車ん中」とか…どよーん。
だめだ。なんかもうだめかもいろいろ自信がなくなってきた。というよりめんどくさくなってきた。だって別に処女ってわけでもないしさ一回くらいいっかーなどと、男らしく(女なのにな)観念しかけて、でもだからって諦めるにはまだ早い!と私は最後の悪足掻き。

「と、取って来ますよ!私!」

ついでにそのまま逃げちまえばいいと私は勢いよくベットに立ち上がる。しかしスプリングに思いがけずいい反応を返されて、ふらりとよろけて…ああ何度目だろうかこのデジャヴ。

「…急に立つからだ、あほ」

やっぱり近さは変わらない。それどころがもっと近くなったどきんどきん。なにしろよろけた私を店長が咄嗟に抱き止めたんだから、近いどころかこりゃ密着じゃん?と自分の間抜けな所業にその腕の中で反省を。

「す、すいません」

横座りになる私の頬は店長の胸に触れていた。でも謝りつつもその胸の鼓動が大きいのに気が付けば店長が緊張してるのが手に取るようにわかって、なんだかそれがすごくかわいく思えてしまって、「は」なんて上から聞こえる強い呼吸の音にだってああ本当に初めてなんだな、と、本当に女慣れしてないんだなと納得しつつも…どうしてほっとしちゃってんだろ、私。
でもほんとにどこか擽ったい。胸の奥はきゅうんってなるし困った状況なのに、この胸の居心地の良さに私の身体は離れるのを拒んでる。変なの。なにこれ。こんな変態に対してそんなこと思うなんて私ってばよっぽど男に飢えているのかな。もういいやとか思っちゃうのも、悔しいけど。
背中の腕は最初は抱き止めただけだったはずなのに、徐々に力が入っていくのがわかった。そしてその手がとても熱を持っているのも伝わってきた。だからどうしたらこの店長を断れるんだろうって、こんなに緊張してるみたいな彼を気持ちを傷付けずに離せるんだろうって、少しだけ、気遣う気持ちが湧いた、のに。

「うきゃっ」

ぼふんとベットに倒された。ものすっごい近くに店長の顔がある、そう思っていたら次の瞬間には。

「ぎゃ、ななななにを…!」

なんで店長のおかおが私の胸にあるんだー!
ひええっとばかりに身体を捩る。でもがっちりと腰に廻された腕が私の動きを制限してもだもだとしか動けない。負けが濃厚になりそうなこのマウントポジションに、やべーヤられると今更すっごく焦りだして内心冷や汗を盛大に私は流してた。けれどそんな私の胸のうちを察したようにすっと胸の重みは遠退いて、また目の前に例の素敵なおかおが、私の顔をまるで救いを求めるように覗き込んできて。

「……いやか?」

「っ…う」

甘えたような困り顔。そんで子供みたいに拗ねた声。母性本能を全開フルスロットルで引っ張り出されるような、そんな感覚に私の息の根止められそう…でも、でも、あーもう!これしょうがないなぁって受け入れていいもの?やっぱりやっぱり、こーゆうことは好きな人とすべきじゃないの?などと混乱の最中でも理性はきちんと働いて、というよりぶっちゃけ会って3回目の男とヤるとかそんな簡単な女に思われたくないってちっぽけなプライドが、こんな変態男なんとも思ってないはずなのに、そんな女に見られたくないとか気持ちが伴わないのが嫌だとか、不思議な感情がなぜか湧いてくるのを止められない。
だってだって、こんなの嫌だ。身体が目的って始めっからわかっていてもやっぱり嫌だ、気持ちが納得出来てない…なんて、こんな風に感じる自分に驚くばかりだけど、それでも、やっぱり。

「…や、だ」

絞り出すように私は声に出して意思を伝えた。するとぴくんとその眉が跳ねた。けれどだからといって怒り出すことも手を離すこともなにか言うこともしない彼に、なぜか私が変に焦ってしまって。

「だ、だって、その、て、店長とはまだ出会って日も浅いですし、きょ、今日は初仕事でえっと、いろんなことあったし変な服とか着せられたりとかして疲れたっていうか、ちょっと理解を越えたものがたくさんある店でやっぱりまだすぐには難しいというか…と、とにかく、そんな訳でなんか気分的にムリかと…」

途中から自分で自分がなにをいってるかわからなくなった。てかこれじゃ『嫌』の言い訳にまるでなってねぇぇ!とは思っていても、変に動揺して心臓ばくばくの私には最早どうにもできない。でも本当にこの男のことをなにも知らない状態でそーゆうコトするのに躊躇いの気持ちが湧いてしまう。そのくせそんな複雑な気持ちを素直に言うのもなんか悔しい。だけどうまく説明が出来ない私の的外れな話を店長は意外と静かに、しかも頷きながら聞いてくれてて…もしかして、わかってくれたのかも。

「…そうか、嫌なのか…」

ぽそっと聞こえた声に若干の罪悪感。けれどもああ良かった、やっぱりわかってくれたんだってほっとして力は抜けた。とりあえずこの状況を回避することが出来たって。だから店長の手からも力が抜けてくのにも胸を撫で下ろして、「そうか、わかった」とまた呟いた店長に心の中で『ごめんなさい』と合掌したのだけれども。
ぐんっと起き上がろうとした肩が押されてまたベットへ逆戻り。ついでにまた覆い被さってきたおかおにある唇が、底意地悪く歪んだのを私が見た時には、

「なら止める……と言うと思ったら大間違いじゃけぇええ!」

「うっぎゃあああ!!なんで広島弁んんん!?」

…(なぜか広島弁の)狼がいた。






了解と納得






いくらこいつが稀にみるいい男だったとしても、いくらその場の空気に流されたんだとしても、夢見(すぎて)る童貞の願いなんて了解すんじゃなかったくっそー本気で早まった!…なーんて、今更後悔してももう遅い。あーどうしよどうしよこのままヤっちゃう?シちゃう?しかしそれでいいのか私の貞操!例え了解したとしてもそんなの口約束でしかないし、それはそれ、これはこれってな感じで、私は納得してないわけであります変態エロ店長どの。だから止めてとか言わせないで、あんた相手に犯されてるようなシチュにだってなりたくないのよお願いだから。だって私の性癖は至ってノーマル。のにこんなエロおたくに無理矢理とかそれこそ18禁まっしぐらの正に神田店長の土俵じゃないかAVでも撮る気ですかこんちくしょー!……やべ、やりかねない(汗)。

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