手をのばして抱きしめて

□手をのばして抱きしめて 第8夜
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室長室でコムイにそう聞かされた時、頭の中が真っ白になった。
焦り、が渦巻く。
認めたくはないがあのバカ兎は女の扱い方がうまい。談話室で何度もルキと仲良く話し込んでいるのを見かけた。
俺はあまり話す方でもない。女の扱いもあまりうまくはないと思う。

このまま、兎にルキをとられるのか?
嫌だ。心底そう思う。
誰にも渡したくない。
俺だけの蓮の華。それをあの兎にも見せたのか?
そう考えただけでおかしくなりそうだ。
これは嫉妬だ。
本当は初めから分かっていた、俺はルキが好きだと云う事を…。
でもその気持ちを無理矢理封じていた。
認めたくなかった。
認めたらもっと苦しくなる、そんな風に思っていたからだ。

「神田、大丈夫なんですか?」

よっぽど俺の様子がおかしかったのだろう。コムイに報告をしているモヤシが、珍しく心配そうに見ている。

「…余計なお世話だ」

唸るように言い捨ててソファーから立ち上がる。

「まだ神田くんからの報告終わってないよ?」

暗に報告を終わらせずに勝手に出て行くなとコムイが言っている。

「うるせぇ」

とても報告なんてやってる気分になれない。
俺がこんなになるなんて。
何故か怒りすら湧いてくる。
一刻も早く一人になりたいと思い足を進めようとすると、バタンと扉が開いた。

「ただいまさ〜」

「ただいま戻りました〜」

騒がしくルキと兎が入って来た。
お前らタイミング悪過ぎだ。

「あれ、ユウもアレンもこれから任務さ?」

呑気な声に苛立つ。

「いえ、僕達も任務終わって報告していた所です」

あなた達の後に出たので知らなかったでしょう、と相変わらずの胡散臭い紳士的な笑みでモヤシは答えていた。
そのあまりにもいつもの日常に俺は余計に苛立ちを感じ、ガンっと壁を殴りつけた。
周りが静まり返る。

「ユウ」

兎が俺の名を呼ぶ。
パラパラと崩れる壁はそのままで、俺はただ無表情にヤツの顔を眺めた。

「賭けの結果を教えるさ」

賭け?とモヤシは怪訝そうな表情で俺を見る。
にんまりと笑うバカ兎が視界に広がる。

…聞きたくない。

兎が口を開きかけた瞬間、俺は耳を塞ぐ代わりにルキの手を掴み、引きずるように室長室を後にした。
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