手をのばして抱きしめて

□手をのばして抱きしめて 第10夜
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それで賭けの事もあったからオレはルキのベッドに行って声かけて起こしてみたんさ。
炎は全く熱くないのに何故かルキの身体だけは燃えるように熱かった。それで触れた瞬間にルキが目を覚ましたんだけど…うん、あの目、イノセンス発動してる時と同じ紅い目。けど任務中とも違う、あれ、何て言ったらいいのか今思い出してもゾクッとする。いや怖いとかじゃなくて、とろけていきそうなあの目。オレの理性とかそんなのもう全然意味がなくなって、欲望を全てその目に溶かし込んでオレまで溶けてしまいそうだった。
…ダメだと思ったさ。ユウの気持ちすっげーわかった。ルキを自分のものにしたいって。
で、思わず抱き締めて、それからキスしようとしたんだけど…でも出来なかったんさ。
あと少しって所で紅い目が揺れて落ちて、いや実際はルキが泣いてたんだけど本当にそんな風に見えたんさ。そのまんま目を閉じて何か耐えるみたいに震えてるのがわかった。多分ルキが自分でその欲望を抑え込もうとしてたんだと思う。
ぎゅっと目も唇も閉じてすっげー苦しそうで痛々しくて、身体を固くして震えてるルキの髪に触れようとしたら小さな声で言ったんさ。『ユウじゃない』って。『ユウじゃないと嫌だ』って。

「その瞬間、オレは賭けに負けたんさ」








「…で、ユウは何で顔が真っ赤になってるんさ?」

にんまりとあの時、室長室で賭けの事を言っていたあの時、それと同じ笑みを兎はしていた。

「っ、うるせぇ」

俺はテーブルに肘をつき、手のひらで顔を隠した。

「…愛されてるわね、神田」

隣でリナリーが呟く。

…もうどうしたらいいんだ俺は。
苦しい程の愛しさが身体中を駆け巡り、震えがきそうだ。
好きだ、好きだ、好きだ、と思わず叫んでしまいたい衝動にかられる。
強烈なこの感情。
ああ俺はこんなにもルキが愛しくて仕方がない。
もし今ここにルキがいたら力の限り抱き締めてしまいそうだった。

「でもその後ルキ、どうしたの?身体はつらいままなんでしょう?」

「ああ、さすがに一緒の部屋にはオレいれなくて、だって拒まれても我慢する自信、全くなかったし、一人で部屋を出て行ったさ。
ルキも近くに男がいるより耐えやすいだろうと思って。
それで適当な所に潜り込んで寝た。」

「…それは懸命な判断ね」

頷いてリナリーはおもむろに立ち上がる。

「でも、ルキの気持ちを賭けの対象にするなんて許せないわ」

隣でにっこりと笑ってダークブーツを発動させた。

「ええ!?ちょっ待つさ」

「オイ待てリナリー!」

ドガッ! ドゴン!

…思いっきり蹴り飛ばされた。

「いってぇな、なにすんだよ!」

「ひどいさリナリー!」

「ひどいのはあなた達よ!」

吹っ飛ばされて倒れ込んだ俺達を、仁王立ちしているリナリーが冷ややかに見下ろす。
怒りのオーラが見えるようだ。
食堂にいる他のヤツらは遠巻きにしてそんな俺達を眺めている。

「ルキだって好き好んでそんな体質な訳じゃないでしょう!?
イノセンスの適合者で、そのせいでそうなってるんじゃない!
神田もラビも知ってたのになんで、なんでそんな方法しか考えつかないのよ!」
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